【運営】:認知症介護研究・研修センター(東京、大府、仙台)
  我が国の認知症介護に関する研究・研修の中核的機関として
  平成12年度に厚生労働省により設置されました

プレスリリース

[2026年9月8日更新]


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【本プレスリリースに関するお問い合わせ先】
 社会福祉法人 浴風会 
 認知症介護研究・研修東京センター
      運営部総務課 山口真哉
      TEL:03-3334-2173
      E-mail:tokyo_dcrc@dcnet.gr.jp

認知症があっても、一人で暮らし続けられる社会へ
―「支援される人」から「権利を持つ人」へ
日本の認知症政策・実践から示された10の「転換」―

 高齢化と一人暮らしの増加が進む日本では、認知症がありながら一人で暮らす高齢者を、社会としてどのように支えるかが重要な課題となっています。
 これまでの認知症ケアや福祉制度は、認知症のある高齢者が家族などと暮らしていることを前提として設計されてきました。しかし、一人暮らしの高齢者は、家族による日常的な支援を受けにくく、必要なサービスへのアクセスや社会とのつながり、意思決定などにおいて、独自の課題を抱えています。論文では、日本では3世帯に1世帯が一人暮らしであり、認知症がありながら一人で暮らす高齢者への支援体制を見直す必要性が指摘されています。
 こうした中、社会福祉法人浴風会認知症介護研究・研修東京センターの粟田主一センター長、高千穂大学人間科学部の池内朋子准教授、慶應義塾大学、米国ラトガース大学、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の研究者らによる国際共同研究グループは、粟田センター長が主導してきた、独居認知症高齢者の権利擁護に関する研究・実践をもとに、これからの認知症ケアと社会のあり方を考えるための10の「教訓(Lessons)」を整理しました。この論考は、老年学分野を代表する国際誌の一つである「The Gerontologist」に掲載されました。
 論文では、認知症のある人を単に「支援を受ける人」として捉えるのではなく、自分の意思を持ち、自らの人生を選択し、社会の中で暮らす権利を持つ一人の人として捉えることの重要性を示しています。さらに、認知症のある人を支援する仕組みそのものを、従来の医療・福祉中心の考え方から、人権を中心とした考え方へ転換する必要性を指摘しています。

背景
「一人暮らし」を前提にした認知症支援へ

 認知症のある高齢者が一人で暮らす場合、診断や必要なサービスへのアクセスが遅れたり、緊急時に支援を受けにくかったりすることがあります。また、家族という身近な「代弁者」がいないことで、本人の意思や希望が十分に反映されない場合もあります。
 一方で、「認知症があるから、一人暮らしはできない」と考えることが本当に適切なのでしょうか。重要なのは、「一人暮らしをやめさせるにはどうすればよいか」ではなく、「本人が一人で暮らしたいと望むのであれば、どうすれば安心して暮らし続けられるのか」を考えることです。
 論文では、認知症のある人がどこで、誰と暮らすかを自ら選択する権利を尊重し、そのために必要な住まい、在宅サービス、緊急時の支援、意思を伝えるための仕組みなどを整えることが重要だとしています。

日本から示された「10の転換」

 本論文では、日本で進められてきた「認知症のある一人暮らし高齢者の権利擁護」に関する取り組みから、今後の認知症政策・ケアを考える上で重要な10の視点を示しています。

1.「サービスを提供する」から「ともに暮らせる社会をつくる」へ
  目標を、単に医療・介護サービスを充実させることから、認知症があっても、その人らしく社会の中で暮らせる社会をつくることへ広げる。
2.「支援の必要性」から「人権」へ
  認知症のある人を「助けを必要とする人」としてだけ見るのではなく、自らの権利を持つ主体(rights holder)として捉える。
3.「認知症で一人暮らし」を可能な暮らし方の一つとして認める
  一人暮らしを最初から「問題」とするのではなく、本人が望むのであれば、その暮らしを可能にする仕組みを考える。
4.「家族の責任」から「社会の責任」へ
  認知症のある人の生活を家族だけが支えるのではなく、社会全体で支える仕組みをつくる。
5.「認知症という診断」から「その人自身」へ
  認知症という診断名によって、その人の能力や人生の可能性を決めつけるのではなく、診断をその人の一側面として捉える。
6.「問題が起きてから対応する」から「予防する」へ
  危機が発生してから支援するのではなく、問題が深刻化する前から、地域でつながり、必要な支援につながる仕組みをつくる。
7.「本人の能力不足」から「環境を変える」へ
  認知症のある人が「できない」のではなく、できるようにするために住環境や社会環境をどう変えられるかを考える。
8.「困った人」から「支援が届いていない人」へ
  「対応が難しい人」と捉えるのではなく、なぜその人のニーズが満たされていないのかという視点から支援を考える。
9.「本人に代わって決める」から「本人が決められるよう支える」へ
  家族や専門職が本人に代わって決めるのではなく、本人の意思や希望を確認し、意思決定を支える
10.「保護される人」から「権利を持つ人」へ
  認知症のある人の権利を守る責任を、本人や家族だけに負わせるのではなく、行政、医療・介護、地域社会など、社会全体が担う

 これら10の視点は、論文のTable 1で整理された「Ten Lessons from Japan’s Human Rights-Based Dementia Care」に基づいています。

「認知症だからできない」から「どうすればできるか」へ

 今回の論考が提案しているのは、単に認知症のある人へのサービスを増やすことではありません。 大切なのは、私たちの「見方」を変えることです。 例えば、認知症のある人が一人暮らしを希望しているとします。 従来の考え方では、「一人暮らしは危険だから、施設に入ったほうがよい」と考えることがあります。 これに対して人権を中心としたアプローチでは、「本人が一人暮らしを続けたいのであれば、どうすればそれを可能にできるだろうか」と考えます。
 そのために、必要なサービスにつながる仕組み、住まいの支援、緊急時に対応できる体制、 本人の意思を確認する仕組み、地域とのつながりなどを整えていきます。 論文では、特に専門職による支援へのアクセス、ケアマネジメント、多職種連携、緊急時への対応などが重要であると指摘しています。

「コペルニクス的転回」が意味するもの

 本論文のタイトルにある「コペルニクス的転回(Copernican Revolution)」は、 認知症ケアの考え方そのものを大きく転換することを意味しています。かつては、「高齢者は認知症になったら誰かと一緒に暮らしている」ということを暗黙の前提として、制度やサービスがつくられてきました。 しかし、現実には高齢者の暮らし方は多様であり、認知症がありながら一人で暮らす人も決して例外ではありません。 つまり、「家族と暮らす認知症高齢者」を中心に制度を考えるのではなく、「一人暮らしを含め、多様な暮らし方をする認知症の人」を中心に制度を考える。 この視点の転換を、論文では「コペルニクス的転回」と表現しています。

認知症のある人だけの問題ではない

 この問題は、認知症のある高齢者だけに関係するものではありません。 高齢化と一人暮らしが進む中で、誰もが年齢や健康状態、認知機能にかかわらず、自分の望む場所で、自分らしく暮らし続けられる社会をどうつくるかという問題だからです。
 本論文では、これからの認知症支援には、サービスを増やすだけではなく、家族だけに頼らない支援体制、危機が起こる前から支える地域の仕組み、本人の意思決定を尊重する仕組み が必要だとしています。そして何より、認知症のある人自身の声や希望を政策や地域づくりに反映させることが重要です。日本の認知症政策でも、認知症のある人自身が政策づくりに参加し、本人を「権利を持つ人」として位置づける方向へと変化しています。

研究の意義

 本論文は、日本で2019年以降に進められてきた研究や実践、そして2023年に制定された共生社会の実現を推進するための認知症基本法などの政策的発展を背景に、認知症のある一人暮らし高齢者の権利をどのように守るかについて、日本の経験から得られる知見を国際的な視点から論じたものです。
 研究グループは、認知症のある一人暮らしの高齢者を「保護される存在」や「支援の対象」としてだけ捉えるのではなく、意思を持ち、自らの生活を選択し、社会に参加する権利を持つ一人の市民として捉えることが、これからの認知症政策・ケアを考える上で重要だと指摘しています。
 日本が世界に先駆けて経験している高齢化と一人暮らしの増加は、今後、他の多くの国でも直面する課題となる可能性があります。「認知症になったら、できないことが増える」だけではなく、「認知症があっても、どうすればその人らしく暮らし続けられるか」。この問いから、これからの認知症ケアと社会のあり方を考えることが求められています。

【論文情報】

 論文タイトル:
 The Copernican revolution of caring for older adults living alone with dementia: Lessons from Japan
 著者:
 Tomoko Ikeuchi, Naoki Ikegami, Shuchi Awata, Takashi Amano, Elena Portacolone
 掲載誌:
 The Gerontologist  (Oxford University Press)
 掲載日:
 2026年8月12日
 DOI: 10.1093/geront/gnag180
 
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