① 事例にあげた課題に対して、あなた自身が困っている事、負担に感じている事等を具体的にみていきましょう。
玄関から施設外に出て行こうとすることがあり、転倒や転落、その他事故等の心配がある。また、制止した際には大声で抵抗したり、暴力をふるったりする為、職員はストレスに感じることがある。 全面的に何らかの介助を必要とする状態であるが、この時は何時間でも玄関に張り付くために、食事、入浴、排泄等を長時間に渡り全面拒否するので、何もできない状態にジレンマを感じる時がある。
はい。
日によって違いますが、24時間近く過ごす時もあります。
はい。そのつど報告はしています。「困ったらいつでも連絡して下さい。」とは言ってくれますが・・・。
今のところ、Aさんの気が済んだり疲れたらスムーズに誘導できる為、無理強いはしないことが共通理解となっています。
② あなたは、この方に「どんな姿」や「状態」になって欲しいのですか。
転倒すること無く、規則正しい生活をして欲しい。
また、定期的にでも子供と会うことができ、安定した気持で過ごして欲しい
③ そのために、当面どんな取り組みをしたいと考えていますか(考えましたか)
天気の良い日に近所に散歩に行くことと、他利用者との交流の場を作る。また、定期的に子供と会える機会を作る。
集団レクリエーション時等は、特に他者とのトラブルはありませんが、その際も幻視、幻覚が現れることがあり、独りで壁や何も無いところに向かって喋っていることがあります。
④ 困っている場面で、本人が口にする言葉、表情やしぐさ等を含めた行動や様子等を事実に基づいてみていきましょう。
・いつもは、朝食後に自フロアからエレベーターで1階正面玄関前まで車椅子を自操し、陣取る。声掛けすると、「○○が迎えに来るから、一緒に行ってくる。」と子供の名前を口にする。その際に、職員がAさんの理由に対して否定的なことを言って連れ帰ろうとすると、大きなキィキィ声で「バカ!」「あっちいけ!」などと怒り出し、その職員を叩いたり、物を投げたりする。また、時には天井を見上げ「~ですか?」等と、実在しない何かと会話をしている。
・表情は穏やかににっこりすることもあれば、いかにも険しく近寄りがたい時もある。
⑤ 本人にとっての行動や言葉の意味を理解するために、思考展開シートを使って、課題の背景や原因を考えてみましょう。
・本人は入所に関して全く納得していない。
・幻覚、幻聴症状がある。
・しっかりとした診断はされていない。
・今の生活環境は、在宅時の生活環境とは全く違う。
・子供に会えない。
・嗜好がなくなった。
・自分で出来ると思う動き(行動)が制止(制限)される。
ここで、この事例を本人の立場から、もう一度考えてみましょう。
⑥ 本人の言葉や様子から、本人が困って(悩んで)いること、求めていることは、どんな事だと思いますか?
・Aさんは、騙されて入所させられたことを悲しく思っていると同時に、子供に対して寂しく思っている。また、そうした想いが幻覚や幻聴と結びつき、混乱している。
・自分の身体状況や気持ちを踏まえた上で、再び在宅での生活に戻りたいと思っている。(自分のペースで自分のできることは自分でしたいと思っている)
お子さんの真意はわかりませんが、現状は把握しています。ただ、お子さんも自分の仕事で大変なようで、とりあえずAさんの安全が確保されていればそれで満足なようにみえます。
⑦ あなたが、このワークシートを通じて思いついたケアプランなど、新しいアイディアを考えてみましょう。
・専門医にかかり、診断をしてもらい、医療面も含めたケアを検討する。
・出来るだけ馴染みの物を身の回りに置く。
・定期的に子供に面会をしてもらう。また、子供も一緒に参加できる外出行事の実施。
・転倒しても怪我を最小限にする工夫(骨折防止の下着や、部屋を含めた行動範囲に掴まりやすいものを配置する)をし、見守る。
・定期的な所在の確認。
理由としては、入所前のかかりつけ医が内科医であること、幻視幻覚があること。効果としては、不安な心況が緩和されること。
常に連絡を取り合う状況にはあったようです。近年、認知症によりAさんが近隣住民からの苦情対象となってからは、こまめに訪問していたようです。(民生委員からも呼び出された)
Aさんを事例という形で検証することにより、今まで気づかなかったことや諦めていたこと(お子さんのこと)などに対して、新たな気持ちで取り組むことができそうです。文章におこして展開する手法は、客観的に考察するうえで有効な手法だと思いますし、それを補う形で第三者の方が関わってくださったことも、良い方法だと感じました。
「子供が迎えにくる。」と言って、朝からずっと玄関に張り付いている、90代と、高齢で入所してから1年足らずの精神的にも不安定なAさん。当初はAさんの対応に苦慮しながらも、他の職員も他の家族の方もAさんに声をかけ、施設全体が家族として生活できるよう、施設の生活目標を念頭に、Aさんを主体として模索しながら取り組んでいる様子が伝わってきました。
Aさんの行動を制止するという視点ではなく、Aさんの不安な心境が緩和されるよう専門医による受診を推し進め、医療面も含めたケアを検討したり、お子さんをまきこんだ外出行事の実施を考慮したり、生活相談員を中心とした施設全体としての取り組みが期待され、とても多くの気づきを得た事例だったと感じました。
今後の取り組みとして挙げられているように、本人の気持ちを上手に組み入れて近所に散歩に行く等、説得ではない納得の介護を展開されることを期待します。
最後になりましたが多くの時間を玄関先で過ごすことを考えた時に、季節によって感染症や脱水、転倒に関するリスク対応について、組織としてケースカンファレンスを積み重ね、チームケアを今以上に積極的に展開されますように祈念いたします。