① 事例にあげた課題に対して、あなた自身が困っている事、負担に感じている事等を具体的にみていきましょう。
他の人の居室に入らないように。言い争いにならないようにと思う。
朝は比較的体調が悪くなることが多いので、昼食後や夕方にかけて、出口を探して歩き回ります。耳が良いので、利用者同士の会話、職員と利用者同士の会話等が耳に入り、気に入らない時はイライラし、割り込んでくることがあります。
「週末には、○○(息子)さんが迎えに来ますよ。普通の日は忙しくて帰りが遅いので、こちらで泊まりますよ。」といったことを話しています。
約2週間、発熱、肝機能低下で入院しています。膝関節症・胆道感染症の疑いでした。病院では胴体抑制をされていたとのことです。現在、少しずつADLを回復していますが、帰宅願望は前ほど強くありません。
「家に帰りたい」という思いを満たしてあげられない。
「自分の役割や居場所がない。」という思いと、健康が不安になり、「息子を頼りにしたい。」という思いがあるのではないかと思います。
② あなたは、この方に「どんな姿」や「状態」になって欲しいのですか。
・他の人とのトラブルにならないようにしたい。
・現在、週1回息子と自宅に帰っているので維持していきたい。
・気持ちの安定を図りたい。
③ そのために、当面どんな取り組みをしたいと考えていますか(考えましたか)
現在、週1回、息子と自宅に帰っているので維持していきたい。
いつも夕食の買い物をして帰るそうです。自宅では息子が夕食を作っている間は、手伝うことも無く、まわりを行ったり来たりしているそうです。ゆっくり食事をし、コーヒーを飲み、20:00頃に帰ってきます。帰りは特に問題も無く、帰途に着くそうです。
時には息子宅に行き、嫁に髪を染めてもらったり、美容院に寄ったりしています。
この年末年始、3泊4日で外泊しています。
・言葉づかい等に気をつけ、プライドを傷つけないよう、丁寧な対応をする。
・落ちつかない時は、好みの飲み物などをすすめてみる。
・歌が得意なので、出番のある場面の設定を考える。
他の利用者とのトラブルにならないよう気をつける。
体調の変化に気をつける。
④ 困っている場面で、本人が口にする言葉、表情やしぐさ等を含めた行動や様子等を事実に基づいてみていきましょう。
・「○○は、どうしたかしら!」亡くなった息子の名前を言い、スタッフルームに何度も聞きにくる。
・「出口はどこかしら。」と、廊下を行ったり来たりしている。
健康に不安になり、「息子を頼りにしたい。」という思いがあるのではないかと思います。
⑤ 本人にとっての行動や言葉の意味を理解するために、思考展開シートを使って、課題の背景や原因を考えてみましょう。
夫と二人暮らしだったので、不安だったのでないか。
夫との関係を話すことは、殆どありません。
元気な頃は、市内の老後問題に関する研究会に入り、活動していた様子です。
・息子のことを頼りにしていたのではないか。
・いつまでも施設(病院)にはいられない、と思っているのではないか。
ここで、この事例を本人の立場から、もう一度考えてみましょう。
⑥ 本人の言葉や様子から、本人が困って(悩んで)いること、求めていることは、どんな事だと思いますか?
自宅の事が心配なので、早く家へ帰りたい。
心細いので、息子を頼りにしたい。(息子は、「本人にとっての家は、Aさんが楽しく過ごした昔の学生時代の頃の家庭なのでしょう。」と言っている)
穏やかに安心して過ごせる場になっていると思います。
⑦ あなたが、このワークシートを通じて思いついたケアプランなど、新しいアイディアを考えてみましょう。
・現在、週1回息子と自宅に帰っているので維持していきたい。
・歌が得意なので、音楽セラピー活動等で披露してもらい自信にしてもらいたい。
・「家に帰ります」と言ったときに、できるだけ一緒に外に出たい。
息子はとても協力的だと思います。
「いまの良い状態をできるだけ長く維持していきたい。」と思っていると思います。
得意な歌や音楽活動を行なうことでは、周囲の人への影響はあまり変わらないと思います。
むしろ、今回の入院で少し穏やかになってきているように思います。
息子は、認知症に対しても知識・理解があります。「今回の入院で認知症が進んだことは仕方がない、けれどこれからも少しでも認知症が進まないように協力したい。」と話しています。
今回事例に取り組んでみて、いろいろな側面から考えることを忘れていたことに気づきました。家族が認知症を理解し、本人の意向をくみ取ることで協力が得られていることを、再確認できました。
事例提供者は、この事例の課題を、「他の利用者の居室に入る前のAさんの気持ちに気が付きたい」とあげています。Aさんの思いに早く気づくことで、他の人の居室に入ることを防ぐことができるのではないかと考えています。
Aさんの「家に帰りたい。」の家が、息子の家ではなく、学生時代に暮らした楽しかった家庭であったことにも気付きが広がっています。帰りたいというAさんの思いは、自分の役割がないことや、息子をとても頼りにしていることや、自分を支えてほしいという願いではないかとも考えています。このことは、Aさん本人の視点に立つという取り組みになっていると考えます。
現在試みている息子の家で過ごすこと、この状況を把握し、ゆっくり落ち着いて過ごせていることと、家族と定期的に過ごせる取り組みで穏やかに安心して過ごせる場所の確保ができていると確認しています。
家族関係を良好に保ち、良い状態をできるだけ長く維持したいとの息子の介護に対する思いを受け止め、良い関係作りを支えながらケアしていくことの大切さが、現場で活かされているように思います。