「事例を探す」

事例ワークシート 事例28

A 課題の整理Ⅰ 援助者が感じている課題

① 事例にあげた課題に対して、あなた自身が困っていること、負担に感じていること等を具体的にみていきましょう。

Aさん自身が自分の病気のことを認識できていないため、お金の管理やお酒のコントロールができずに、トラブルを起こすことがある。

ひもとき?
健康上の訴えは具体的にどんなことがありますか?
援助者の視点

交通事故にて多数の手術を施行しているため、その後遺症か、腰痛の訴えがあり、湿布を自発的に貼付している。湿布は皮膚が負けてしまうので、自分でガーゼを巻いてその上から貼っている。

ひもとき?
お金の管理はどのようにしていますか?またスタッフはどのように支援していますか?
援助者の視点

基本的には本人管理である。通帳と印鑑はホームで管理しているため、保護費の入金日に弟に預け、一緒に郵便局で全額引き下ろす。その月の支払いを本人からしてもらい、残りは本人が所持している。
以前に、社会福祉協議会の日常生活自立支援事業を利用することを本人と家族に相談し、説明をしてもらったが、本人の理解が得られず、利用には至らなかった。そのことを家族に報告すると、「他人に預けることに抵抗があるのではないか。それなら、家族が預かります。」と協力的になってきた。

ひもとき?
お酒はいつどのような時にどのくらい飲んでいますか?また、気分や体の状態によって多い少ないがありますか?どんな気分の時に多くてどんな気分の時に少ないですか?
援助者の視点

ホーム内ではお金が続く限り買い物に出掛け、焼酎のカップ酒を購入し、ウーロン茶やコーラ割にして、夕食前に飲んでいる。主治医からは1日コップ1杯程度と言われているが、買ったお酒がまだ残っていることを知っているときは、お代わりを要求することがある。

ひもとき?
トラブルはどんな時にどんなトラブルがありますか?スタッフはその時どのような対応をしていますか?
援助者の視点

飲酒の量が多くなり、ある程度の所持金があるときは、外に飲みに出かけようとする。スタッフが家族に連絡し、付き添ってもらうようにお願いするが、家族が対応できないときでも一人で出掛けようとするので、店までスタッフが付き添い、お店に協力をお願いし、店を出る前に連絡を入れてもらいスタッフが迎えに行く。

外泊中に、お店の前で寝てしまい、お店の人に通報され、警察の保護でホームに戻ったときもあった。
お金に関しては、通帳に保護費が入っていないという思い込みがあったときは、役所に相談に出掛けたり、郵便局の通帳が変更になったときは、郵便局の職員にホームまで来てもらい、説明をお願いしたこともある。

B 課題の整理 Ⅱ 援助者が想定する対応・方針

② あなたは、この方に「どんな姿」や「状態」になって欲しいのですか。

自分自身の病気や障害を受け入れ、社会資源を活用しながら、地域の中で安全に生活して欲しい。

ひもとき?
病気や障害をどのように受け入れてほしいと思っていますか?
援助者の視点

交通事故に遭い、病気になってしまったことで、以前との生活の違いを理解し、体が不自由になったことと、生活の面で不自由を感じていることを実感してほしい。

ひもとき?
Aさんが地域で安全に生活している様子はどんなことができていることをイメージしますか?具体的に教えて下さい。
援助者の視点

馴染みのお店が多く、買い物に出掛けても知り合いによく会う。Aさんがホームで生活していることを地域の方にも知ってもらい、一人で出掛けてもホームに連絡が来るような体制が整っていること。

③ そのために、当面どんな取り組みをしたいと考えていますか(考えましたか)。

病気についての知識を深めていくため、主治医からの説明を受けたり、どのような病気なのかを本人と一緒に勉強していく。

ひもとき?
今までに主治医とこの件について話をしたことがありますか?ある場合はいつ誰を交えてどのように話をしましたか?
援助者の視点

精神科の往診時に、主治医からそれとなく伝えてもらったことがあり、本人は「忘れっぽくなった」と歳を取ってきたことは自覚していた。具体的に頭部外傷性の認知機能障害についてどのような病気なのかは説明されていない。

ひもとき?
本人と一緒に勉強していくとのことですが、Aさんの心情や性格、理解度からどのような形で勉強していったらいいと思いますか?今考えていることで結構ですので具体的に教えて下さい。
援助者の視点

自分がどんな病気を持っているのかを知ってもらい、どんな症状や障害があるのかを共有していきたい。精神科の主治医から説明してもらい、それをきっかけにしていきたいと考えている。また、家族の理解と協力を得て一緒に考えていきたい。

社会資源の活用(日常生活自立支援事業成年後見制度など)。

ひもとき?
成年後見人にどんなことを期待しますか?
援助者の視点

本人が信頼できる人物にお金のことや、生活のことを相談できる体制を取っていきたい。

人的環境を整える(家族、生活保護の担当ケースワーカーの協力を得る)。

ひもとき?
本人が一番信頼している人は誰ですか?家族の誰にどんなことを期待しますか?
援助者の視点

買い物支援では、ホームの男性スタッフがいる時間によく出掛けている。
お金の管理やホーム内での相談事は介護支援専門員
外泊の連絡や送迎は弟が担当。

ひもとき?
生活保護の担当ケースワーカーにはどんな関わりを期待していますか?
援助者の視点

住宅や保護費の管理についての助言や指導。

C 本人の状態や状況を事実に基づいて確認してみよう

④ 困っている場面で、本人が口にする言葉、表情やしぐさ等を含めた行動や様子等を事実に基づいてみていきましょう。

日常生活自立支援事業の生活支援員が面談に来た晩は眠れないことがあった。次の日、生活保護の担当ケースワーカーの所に一緒に相談に行く約束をしていたが、「まずいことになる。」「通帳や印鑑を預かるって言うのはお金が目的なんだ。」「あの人に預けて自殺した人がいるんだ。」と言う。

ひもとき?
生活支援員が面談に来た時、スタッフの誰かが常に一緒にいますか?
その時の生活支援員はどのような雰囲気でどんな口調でどんな話をしていますか?
援助者の視点

面談の時は介護支援専門員が一緒にいた。生活支援員は、本人の意思を確認しながら、どのような制度なのか、どのような手順で制度を利用していくのかを説明している。本人のつじつまの合わない話もスタッフに確認をとりながら、否定せずに聞いている。
日常生活自立支援事業の件で、生活支援員が2回面談に来ている。最初は介護支援専門員から制度についての概要を説明し、今までホームで預かっていた通帳や印鑑を、この制度を利用し管理してもらいたいことを本人に伝え、承諾を得た上で1回目の面談を行っている。その時は本人が「一人では決められないので、家族に相談して決める」と話している。2回目は家族から利用したいとの意向を確認し、面談に来てもらい、本人の意向も確認した上で説明を行ったが、最終的な確認の時点で、「まずいことになる」等の発言があり、本人の意思決定は得られていない。

ひもとき?
スタッフが一緒にいた場合、コミュニケーションの仲立ちをするなど何らかの関わりがあれば具体的に教えて下さい。
Aさんは生活支援員を信頼していますか?そのように判断した理由は何ですか?
援助者の視点

生活支援員を否定することで、自分を正当化し、それを理由に制度の利用を断りたいと考えていたように思う。

ひもとき?
眠れない原因は何だと思いますか?あなたやスタッフが考えたことを教えて下さい。
援助者の視点

Aさんの思いの中では、制度を利用することで生活保護の担当ケースワーカーに連絡が入り、保護費を止められるのではないかとの心配と、今までの自分の生活に変化が出ることへの不安があったように思う。

往診時には主治医に「酒は飲んでいない。」と答えている。

ひもとき?
記憶はどのくらいありますか?
近時記憶の状態や覚えていてよく口にする言葉があれば具体的に教えて下さい。
援助者の視点

お金に関して理解できないときは、一度説明したことでも、同じ思い込みを繰り返し訴えることがある。例えば、「入院時に預けたお金がまだ、病院に残っている」「質屋に背広を捨てられた」など。

・お酒を飲みに行きたくて「女の子と約束している。」「お世話になったお店だから挨拶に行く。」と言う。スタッフが家族や生活保護の担当ケースワーカーに相談すると「そんなことしたら、保護を止められる、まずい。」と言う。
・生活保護の担当ケースワーカーとの話し合いに納得がいかないと、「警察に行く!『A』って言えば5、6人はすぐに警察が集まるんだ。」と言う。
・保護費の使い道について介護支援専門員が話しているときは「加害者が負担しきれなくなって、相手が保護の手続きをしたんだ。保護を止めても働いていたから、厚生年金がもらえるから心配ない。」と言う。

D 課題の背景や原因等の整理

⑤ 本人にとっての行動や言葉の意味を理解するために、思考展開シートを使って、課題の背景や原因を考えてみましょう。

思考展開シート

・交通事故による障害のため、自分は被害者であり、補償される必要があるという思いがどこかにあるため、自分自身の問題として受け入れられていないのかも知れない。
・今までの生活環境のなかで培った経験が、本人の言動から垣間見られる時があり、現実から逃避しようとしているのではないか。

ひもとき?
交通事故の障害についてスタッフはAさんと何らかの話し合いをしたことがありますか?あれば具体的に教えて下さい。またその時のAさんの様子はどうでしたか?
援助者の視点

交通事故に遭ったことで、たくさんの手術をしたこと。入院生活が長くなり、加害者が保証できなくなったので生活保護を利用し始めたこと。などで、生活に不便を感じていたことなどは話さない。

ひもとき?
Aさんが信頼して、素直に心の内を話すことができる人がいますか?
援助者の視点

いないかも知れない。

ひもとき?
今までの生活環境の中で培った経験とは具体的にどんなことですか?また、どんな時に見られますか?
援助者の視点

腕に入れ墨があり、お酒が入ると気持ちが大きくなり、仲間がいることを強調したり、警察にも顔が利くようなことを言う。

ひもとき?
現実から逃避しようとしていると感じた場面を、本人の言葉や様子で具体的に教えて下さい。
援助者の視点

生活保護の担当ケースワーカーに飲酒を止められ、納得がいかないときに「保護費を止められても、年金があるから構わない」とお酒を飲みに出掛ける。
ホームの入居料を支払わず、飲み代に使ってしまう時は「ここを出ても、家があるから一人暮らしする。」と言う。
生活保護の担当ケースワーカーから保護費の使い道を指摘されたときは「警察に行く!『A』って言えば警察がすぐに集まるんだ」とすごんで見せる。

E 事例に書いた課題を本人の視点に置き換えて考えてみよう

ここで、この事例を本人の立場から、もう一度考えてみましょう。

⑥ 本人の言葉や様子から、本人が困って(悩んで)いること、求めていることは、どんなことだと思いますか?

病気になってしまったことで、今までのような生活が送れなくなってしまった。

ひもとき?
病気になってしまって本人が苦しんでいることを3つ教えて下さい。
援助者の視点

1.施設や病院での生活を送っていること。
2.離婚を経験し、子供達と連絡がつかなくなってしまったため、しばらく会っていないこと。
3.地域との信頼関係が崩れていっていること。

ひもとき?
本人はどんなことができる生活を送りたいと思っていますか?具体的に教えて下さい。
援助者の視点

Aさんは、一人暮らしで自由に生活したいとの意向がある。
馴染みのお店でお酒を飲んだり、地域の人たちと関わることで、自分の存在を表現したいのではないか。

F 課題解決に向けた 新たなアイディア

⑦ あなたが、このワークシートを通じて思いついたケアプランなど、新しいアイディアを考えてみましょう。

思考展開シートで薬の副作用を改めて考えた時に、入居してから今まで服薬の変更もなく、1年間を過ごしてきた。今の薬が本当に本人にとって必要なものなのか、精神薬を何の疑いもなく提供していたことに気付いた。

ひもとき?
現在飲んでいる薬で、必要がないと思っている薬がありますか?それはどのような理由からですか?具体的に教えて下さい。
援助者の視点

服薬の内容に対して、どのような目的で処方されているものなのかを主治医に確認し、現在の状態で必要がないと思われるものは中止していきたい。

ひもとき?
薬を見直すことによってどんなことが期待できますか?
援助者の視点

飲酒することがあるので、薬の副作用や、手の震えが改善出来るかも知れない。

日常生活自立支援事業の活用を進めていく中で、家族への連絡や相談を行っているうちに、家族の協力を得られるようなった。

ひもとき?
家族のどのような協力が得られるようになりましたか?家族に変化をもたらした理由はなんだと思いますか?(家族・スタッフの働きかけ・体制作りなど)具体的に教えて下さい。
援助者の視点

日常生活自立支援事業の利用を断ったことで、お金の管理に対しては協力を得られるような体制が整えられそうである。本人の状態や日常の生活状況を細かく報告することで、支援が必要であることを理解していただき、家族の協力を得ていきたい。

ひもとき?
あなたの当初の思いと思考展開シートを通しての気づきや取り組みに何か変化がありましたか?具体的に教えてください。
援助者の視点

家族や、生活保護の担当ケースワーカー、介護支援専門員との面談は行なっているが、Aさんと関わりを持っている関係者がAさんも交えて一緒に集まる機会が作れていなかった。Aさんが疑問を感じた時に、すぐに助言や相談が出来る体制を常にとっていきたいと実感した。各機関との連絡調整が私の課題である。

ひもときアドバイス

 認知症の方でアルコール依存症になっている場合、なかなかアルコールを断ち切ることができず支援方法を見出だすことができないことが多い。その中で、この事例に対してスタッフは、お金の管理や自宅に帰る支援を精一杯行っている姿がうかがわれ素晴らしいと感じる。しかし、その人らしさを大切に考え嗜好品が叶えられる生活をするためには、健康・生活リズム・金銭など様々な要素のバランスが求められてくる。この事例の場合もお金や酒のコントロールができずにトラブルが起きることが悩みになっている。特に事例対象者の年齢が60代と若いことやADLがほとんど自立していることから、当初は本人に対して病気や障害を受け入れて地域の中で生活してほしいと願い、個人へのアプローチケアになっている。今回のワークシートや思考展開シートでの取り組みのプロセスにおいて、家族の理解が得られるようになったり、支援者が個々に動くのではなく関係者が同じ土俵で考えていくことの大切さに気付いている。具体的には、本人が「何を望んでいるか」「何ができるのか」「支援者は何ができるのか」「支援者の個々の役割やチームとしての役割は何か」が明確になってきている。このことによって、本人の視点で捉えつつポジティブに実践しようとする姿勢がより強化され、点のケアから面のケアへの転換が見られたことに対して、大変嬉しく感じた。

前のページへ戻る
事例一覧へ戻る