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事例ワークシート 事例17

A 課題の整理Ⅰ 援助者が感じている課題

① 事例にあげた課題に対して、あなた自身が困っている事、負担に感じている事等を具体的にみていきましょう。

他の人の食べ残しを食べてしまうのではないかと心配している。

ひもとき?
食事の量について、まだ食べたい、量が少ないなどの要求を聞いたことがありますか?また、自宅での食事量や嗜好について本人と話したエピソードがありますか?
援助者の視点

食べたい、量が少ないということを聞いたことはありません。食事量ははっきりしませんが、嗜好は何でも好き。「食べることが好き」と言います。

食べることが大好きなのに、糖尿病である。

ひもとき?
食べることが好きだったことに関して、家族や本人とのエピソードがありますか?
また、糖尿病の管理を自宅ではどのようにしていましたか?
援助者の視点

娘達と食べ歩くことが好きで、よく温泉等に行っていたと言います。
冷蔵庫の豚生肉を食べ、らっきょうを一瓶食べてしまったことがあり、入所のきっかけになりました。自宅では糖尿病の管理は全くしておらず、本人任せにしていた様子です。

歩行が不安定で、転倒するのではないかと心配である。

B 課題の整理 Ⅱ 援助者が想定する対応・方針

② あなたは、この方に「どんな姿」や「状態」になって欲しいのですか。

・食事を楽しみにしてもらいたい。
・糖尿病を進行させたくない。
・転倒して欲しくない。

③ そのために、当面どんな取り組みをしたいと考えていますか(考えましたか)

・残り物をそのままにしておかない。
・栄養士に相談し、カロリーの少ない食べ物を探す。
・カロリーの無い食べ物を用意する(おやつ・スープ・飲み物等)。
・医務室と連携し、定期的に血糖値を診ていく。
・歩行時の見守りをする。

ひもとき?
Aさんの支援に対して多職種間で共有している目標がありますか?
援助者の視点

共通目標は、糖尿病を進行させないで、食事を楽しんでもらいたい。夜間せん妄の解決。

ひもとき?
食事以外の時間でAさんらしく過ごせている場面がありますか?
援助者の視点

あまりないように思います。いつも居眠りをしているか、危なげに歩行しているかです。
得意であった習字のサークルに参加することもありますが、居眠りが多いです。

C 本人の状態や状況を事実に基づいて確認してみよう

④ 困っている場面で、本人が口にする言葉、表情やしぐさ等を含めた行動や様子等を事実に基づいてみていきましょう。

・食事が終わると、ゆっくりと立ち上がり、近くにある物に掴まりながら歩き出し、配膳車に向かう。 配膳車に乗っているお膳を触り出す。
・ワゴンにおやつが残っていると、誰も近くにいないのをみて、歩いて来て手探りしている。
・「○○さん!」の声掛けに、「誰なの・・・、○○なの。」と、息子の名前を言う。

ひもとき?
あなたは、Aさんの「誰なの・・・○○なの。」の言葉にはどのような意味が含まれていると考えますか?
援助者の視点

Aさんは、早くに夫と死別し息子との二人暮らしでした。息子は仕事で、Aさんは殆ど一人でいることが多かったように思います。いつも息子のことを気にかけていたと思います。

D 課題の背景や原因等の整理

⑤ 本人にとっての行動や言葉の意味を理解するために、思考展開シートを使って、課題の背景や原因を考えてみましょう。

思考展開シート

・自宅では、好きな時に自由に食べていたが、施設入所になり、管理され、不自由に感じている。
・「自分で用意し、食べたい。」という思いがあるのではないか。
・結構、慎重に歩いているのではないか。

ひもとき?
自宅では好きなものを自分で作り好きな時間に食べていたこと、このことは現状のAさんの行動にどのように影響していると思いますか?<
援助者の視点

自宅で自分のペースで暮らしていたことからすれば、思いどおりにならないことばかりのようです。
入所し、糖尿病のコントロールは可能になりましたが、認知症の進行からかBPSDが強く出てきています。特に夜間に顕著に出てきています。脱衣行為・介護拒否・暴言・暴力等が出てきています。<

E 事例に書いた課題を本人の視点に置き換えて考えてみよう

ここで、この事例を本人の立場から、もう一度考えてみましょう。

⑥ 本人の言葉や様子から、本人が困って(悩んで)いること、求めていることは、どんな事だと思いますか?

・食事をおいしくいただき、満足したい。
・糖尿病を悪化させたくない。

ひもとき?
あなたは、おいしく食べたい、満足したい、の意味をAさんはどのように考えていると思いますか?
援助者の視点

糖尿病の方の満足度は難しいのですが、生活全般を含めて、満ち足りている思いを感じてもらえればと思います。

F 課題解決に向けた 新たなアイディア

⑦ あなたが、このワークシートを通じて思いついたケアプランなど、新しいアイディアを考えてみましょう。

・自宅が近いので、家族の協力を得、自宅への外出を考える。
・家族間で、食事会の機会を作ってもらう。
・家族、本人に食事の好みを聞き、献立にリクエストする。
・医務室と連携し、血糖値に注意していく。
・転倒に注意していく。

ひもとき?
自宅への外出、家族との食事の機会を作ることで施設での課題は軽減できると思いますか?Aさんが施設で毎日生活していく中で健康管理ができ、Aさんが本当に願っていることへ近づけるためのケアのポイントは何だと考えますか?
援助者の視点

日中の課題は、かなり軽減できてきていると思いますが、夜間に起きてきているBPSDは、本人にとっても苦痛と思います。
糖尿病の管理はできても、認知症の進行やBPSDが顕著になって表れてきています。
本人の願うことは、夜間はよく休み、生活のリズムを整えていけたら良いのかもしれません。
施設入所当初食事管理ができ、一時投薬が中止されましたが、半年後に血糖値の上昇により再び投薬が開始されるようになりました。

ひもとき?
食事管理を行うことで糖尿病の管理ができたが、認知症が進みBPSDが顕著になってきているとのことですが、思考過程の中で事例内容での展開が新たにできたことなどありましたら、具体的に聞かせてください。
援助者の視点

特養の入所者は重度の方が多く、その時々のケアを考え、行っているうちに、認知症が進み、困っていることが変化してしまいます。だからこそいろいろな側面からアセスメントしておくことが必要だと気づきました。今まで目の前で見ていることしかアセスメント出来ていなかったし、課題の整理をしていませんでした。Aさんは現在、夜間着ているものを脱いでしまいますが、これも生活歴から昔は寝間着を着ないで寝ていた習慣があったことがわかっています。

ひもときアドバイス

 「糖尿病があり、食事量が決まっているがもっと食べたいAさん」のタイトルどおり、Aさんが施設に入り、糖尿病のコントロールによる食事制限をされたことで、自宅では好き勝手に食べていたことや、元来食べることが好きだったことに対して、食事制限が本人の欲求不満になり、BPSDが増えたのではないかと事例提供者はとらえていたようです。
 空腹に対して満足感を得られるための工夫と、血糖値をコントロールするため、当面の取り組みを行っていましたが、今回のワークシートで原因の整理をすることで、本人の願いは夜間よく休めることで生活リズムを整えていくことではないかというように変化しました。夜間のBPSDは本人にとって苦痛なことだと気付きました。介護現場での表面的な行動だけを見るのではなく、本当の本人の願いがあることに気づきが変わりました。私たちは、本人の本当の思いを見出だすために、本人の言葉や行動の意味を理解することを忘れてはならないと考えます。

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