「事例を探す」

事例ワークシート 事例56

A 課題の整理Ⅰ 援助者が感じている課題

① 事例にあげた課題に対して、あなた自身が困っていること、負担に感じていること等を具体的にみていきましょう。

他利用者との交流を円滑に図れず、急に大声を出してトラブルになっているため、フロア内に本人の居場所がない状態である。居場所を作れないことで悩んでいる。
本人が気に入っている浴室に行くことはいいのだが、女性利用者の入浴中にも浴室に入ろうとすることに関しては、プライバシーを保護する観点から職員もやむを得ず静止している。その時間帯にも、本人が他に落ち着けるような環境を作ってあげられないことに悩んでいる。

ひもとき?
自宅での様子については、どうですか?デイサービス利用時との違いはありますか?
援助者の視点

デイサービスに来てから、大声や興奮が見られることが多いようです。自宅での様子を聞くと、大声はなく、落ち着いて過ごしている時間が長いとのことでした。

B 課題の整理 Ⅱ 援助者が想定する対応・方針

② あなたは、この方に「どんな姿」や「状態」になってほしいのですか。

・本人が落ち着いて過ごせるような空間を設営して、本人らしく穏やかに過ごしてもらいたい。
・本人が持っている・抱えている思いや潜在能力を引き出したい。

ひもとき?
本人が落ち着いて過ごせるような空間は、どのようなところだと思いますか?
援助者の視点

人の多くいる場所やざわつきのあるところを嫌う様子があります。外出時などは穏やかな時が多いです。また、自宅との様子の違いから、自宅に近い環境設定が今後の課題と感じています。

③ そのために、当面どんな取り組みをしたいと考えていますか(考えましたか)。

・現在は、本人が外に出たいときには、職員がマンツーマンで付き添って対応している。また、外出活動には、家族了承の元に参加するよう誘う。本人も、外出時は楽しそうに参加しているので、計画時(には)、積極的に参加してもらっている。
・入浴なども本人が落ち着ける環境を設営するために、1番に誘い、職員がマンツーマンで対応して最後まで接している。フロアで落ち着ける環境を設定するには、家庭での環境に近いような場所を作る、などの工夫が今後はさらに必要だと考えている。
・ドライブにも出掛けられる工夫が、さらに必要だと考えている。小学生の施設訪問の際には、積極的に本人から交流を図ることは見られないが、笑顔は長く見受けられる。言葉を掛けることも見られるが、交流につながることがあまりなかった。小学生がいる時は自発語が多い。(大声での威嚇のような感じではない)今後も、小学生など子供の訪問時には、その場に参加してもらうように対応していく。

C 本人の状態や状況を事実に基づいて確認してみよう

④ 困っている場面で、本人が口にする言葉、表情やしぐさ等を含めた行動や様子等を事実に基づいてみていきましょう。

・落ち着いて椅子やソファに座りながら、急に「オイ!」と怒鳴り声を出したり、歩いている他利用者に「オイ!」と怒鳴り声を掛けたりすることが困る。他利用者とのトラブルの原因にもなっている
・女性利用者の入浴中に浴室に無理やり入ろうとすることがある。女性が入浴中であることを説明しても、本人は理解を示さずに、職員がやむを得ず静止すると、興奮状態になってしまうことがある。このようなことが、対応の困難なことである。

D 課題の背景や原因等の整理

⑤ 本人にとっての行動や言葉の意味を理解するために、思考展開シートを使って、課題の背景や原因を考えてみましょう。

思考展開シート

・本人が落ち着けるような環境に関しては、「音」と「空間」と「明るさ」がキーワードであると考えている。他利用者が多く共有のスペースで過ごす、デイサービスの環境はあまり適していないと考えている。
・本人の嗜好に適するものの発見が乏しいと考えている。

ひもとき?
デイサービスは、週にどのくらい利用していますか?また利用時に疲れを感じていることはありませんか?
援助者の視点

デイサービスは、土曜日以外のほぼ毎日利用しています。そういった中で疲れを感じ、そのことが苛立ちにつながっていることもあるように思います。

E 事例に書いた課題を本人の視点に置き換えて考えてみよう

ここで、この事例を本人の立場から、もう一度考えてみましょう。

⑥ 本人の言葉や様子から、本人が困って(悩んで)いること、求めていることは、どんなことだと思いますか?

・不安感を軽減して、ゆったりとした気持ちで過ごしたいと思っていると考える。
・自分らしく過ごしたいと考えている。

F 課題解決に向けた 新たなアイディア

⑦ あなたが、このワークシートを通じて思いついたケアプランなど、新しいアイディアを考えてみましょう。

・本人の嗜好にあった音楽や歌を知るために、家族への再度の確認や、さまざまな音楽・歌を流して知る努力をする。
・本人に適した外出プランの立案。例えば、地区の山のロープウェーを利用して、昔の登山の思い出に寄り添う。昔、家族で出かけた場所や本人が出かけた場所(デイサービス利用時に可能な範囲で)に行く。電車に乗っての外出を立案する。
・バイクや鉄道のDVDを視聴してもらう。(なるべく個人で視聴できる、本人が落ち着ける環境を設営する)
・本人に見てもらえるように、観光地の資料のバリエーションを増やす。
・現在のデイサービスの広さよりも、もっと本人が自由に過ごしてもらえる空間を増やす。
・活動範囲を広げられるように、併設している特別養護老人ホームのデイサービスセンターやショートステイの利用を考えてみる。
・小学生とも交流が増えるように、小学校の行事に参加することを企画する。
・小学生の施設訪問の時には、デイサービス利用時に参加する場面を今後も継続する。
・保育園児などの幼児との交流場面をつくる。

ひもとき?
思考展開シートを用いて、改めて事例の検証をする中で、何か気づいたことはありましたか?
援助者の視点

まず、本人の言葉が見えていない部分があることに気づきました。学ぶことが明文化されているのでとても受け入れやすく感じました。思考展開シートを使い、カンファレンスをブレインストーミング方式で行う中で、本人についての新たな発見がたくさん見つかりました。

ひもときアドバイス

 デイサービスの環境になじめず、激しい口調や大声などで他利用者の方とトラブルになること、女性の入浴中に浴室に入ろうとすることなど、興奮や怒りを伴う本人の行動に対応することは、職員の皆さんにとっては大変ストレスになっていたことが推察されます。
 しかし、ひもときワークシートや思考展開シートのツールを使い、改めて事例の検証を行いながら、もっと本人の言動に焦点を当てていく必要があることに気づき、チーム一丸となって本人との関わりを見直して、思いを探ろうと前向きに取り組んでいる様子を聞きました。また、作成したシートを見るとすでに多くの気づきを得ており、それに応じた必要なサービスもさまざまに考えていることが分かりました。
 そういった関わりを通し、現在では穏やかに過ごす時間も取れているとの話を聞いています。しかし、既存の建物における環境の工夫や他利用者との交流を目的とするデイサービスでの対応に限界を感じる部分もある、との話を聞きました。また、抗精神病薬の内服についても、量の調整や見直しの必要性を感じつつも、今後どのように関わっていけばいいのか?と苦慮している現状も聞いています。
 正しい抗精神病薬の使用や正確な認知症の診断については、地域によって相談のできる専門的な医療機関が整っていない現状があり、難しい部分もあるかと思います。しかし、まずは事例提供者のように、薬について疑問を持ち、副作用についての知識を得ることはとても重要なことと感じました。また、自宅との環境の違いから、デイサービスでのケアについて限界を感じつつも、本人が在宅での生活をできるだけ長く維持できるように、親身になって考えていくことは、本人や家族の信頼につながっていくものと思われました。

前のページへ戻る
事例一覧へ戻る