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事例概要 事例56

タイトル:私をゆっくりとさせて欲しい

Ⅰ.<事例の状況>

 「オイ!」などと激しい口調で大声を出すことが何度もある状況で、他利用者の方とトラブルになることが多く見られている。他利用者から言動・行動などを注意されると、さらに口調が激しくなり怒りだしている。あいさつ程度のコミュニケーションなら図れるが、それ以外は、つじつまの合わないことを言うことや大声を出すことにより、他利用者との人間関係は職員が間に入ってもうまく構築できない状況である。そして、フロア内には本人の落ち着ける場所がなく、大勢の利用者がいると情緒面は不安定さが助長され、ストレスからうろうろ歩きまわることが多い。そのため、入浴は他利用者が多いと本人が落ち着けなくなるので、本人に落ち着いてもらえるように午前中の1番最初に、職員とマンツーマンで入浴してもらうように対応している。また、外に出たいときは職員が付き添って散歩をして気分転換を図ってもらっている。気分転換のドライブも午後に実施している。
 生活歴からも外出・子どもの世話が好きであり、デイサービスの外出活動があるときは、希望時に参加してもらっていて、表情もよく穏やかに過ごしている。小学生の施設訪問の時には笑顔が多く、楽しそうにしている。本人から小学生に対して言葉を掛けたりはしないが、その場の雰囲気を楽しんでいる。

Ⅱ.<この事例で課題と感じている点>

本人が興奮状態の時に、急に怒鳴り声を出したりして他利用者の方とトラブルになる際の対処で、ストレスを感じる。女性入浴中に浴室に入ろうとして静止する際に、もっと本人が落ち着ける空間があればと悩む。外に出たい時には、できる限り職員が付き添って対応しているので、あとは、フロア内で落ち着けるような対応ができるといいと思う。現在の施設の広さが本人には適していないと感じている。

Ⅲ.<キーワード>

本人のストレス。落ち着ける場所が欲しい。

Ⅳ.<事例概要>

年  齢 80歳代前半
性  別 男性
職  歴 鉄道の機関士(運転手)
家族構成 現在は、妻・長男と同居している。近くに、次男と長女も居住。
認知機能 測定未実施
要介護状態区分 要介護3
認知症高齢者の日常生活自立度 Ⅲb
既 往 歴 多発性脳梗塞・高血圧症・アルツハイマー型認知症
現   病 アルツハイマー型認知症・多発性脳梗塞・高血圧症
服 用 薬 ナウゼリン・バイアスピリン・セルベックスカプセル・アダラート・サルモシン・カルデナリン・グラマリール 眠前薬 ロヒプノール
コミュニケーション能力 こちらからの問いかけに対しては、「オウ!」「ハイ!」などの単語で応じることが多い。「おはようございます。」などの日常のあいさつ程度なら、理解を示しジェスチャーを交えてコミュニケーションが図れる。入浴したくないなどの際も「やだ!」「やりたくない!」と言ったり、浴室から出て行ったりと意思表示はしっかりとしている。しかし、複雑な問いかけを理解することはないので、つじつまの合わない返答が多い。
性格・気質 仕事熱心。 几帳面。 気難しい。 頑固。 外出が好み。
A D L 食事は、自立。 移動は、独歩である。 排泄は、失禁があるのでリハビリパンツを着用している。尿意はある時とない時がある。トイレで排泄の行動ができないことが多いので、職員が声掛けをしてトイレへ誘導して排泄してもらっている。自宅では、トイレ以外への排泄が見られているとのこと。最近は、眠前薬の変更でぐっすり入眠しているとのこと。そのため、トイレ以外での排尿などは減ったが、尿失禁があるとのこと。 入浴は、洗身・洗髪に介助が必要である。衣類の着脱は、上着は声掛けと一部介助で可能。ズボンなどは、介助が必要である。 服薬は、本人の手の平に内服薬を渡して服用するまで確認と介助が必要である。 集団レクリエーションにはあまり興味がなく、参加しても大声などを出して他者とのトラブルになるケースが多い。外出・散歩などは好んでいて、穏やかに笑顔も見られている。家族(長男)の仕事が休みの時は、自家用車でよく外出をし、気分転換を図っているとのこと。
障害老人自立度 A1
生きがい・趣味 認知症の発病前には、庭の手入れ。 話し好き。 バイクツーリングでの一人旅が好きだった。
生 活 歴 妻・長男と同居している。鉄道の機関士(運転手)をしていて、定年退職するまで就業していた。仕事熱心だった。趣味は、定年退職前まではバイクツーリングで一人旅を楽しんでいた。山登りなども本人一人でしていた。自宅の庭に挿し木をしたりして、庭の手入れをしていた。定年退職後は、夫婦での旅行も多く行ったとのこと。他には、庭の手入れや近所を散歩などして穏やかに過ごしていた。また、定年退職後の初期の頃は、孫の世話を一生懸命していた時期(幼児期)もある。孫が小学生になるまでは、よく子守りをしていた。認知症の症状が顕著になってからは、長男の仕事が休みの時には、近隣の入浴施設に気分転換に行って家族で過ごす時間を大切にしている。また、近隣に住んでいる次男の妻もよく訪問してくれている(週1~2日程度)。長男の記憶では、あまり本人が歌を歌うことはなかったとのことだが、歌のレクリエーションに参加した時には、(その時の本人の情緒の安定さも関係しているが)落ち着いていることもあり、歌を楽しんでいるという感じを受ける。ただ、本人が歌を歌うことはない。
人間関係 妻・長男と同居している。長男の仕事の休みには、2人で近くの入浴施設やドライブに出かけ、本人の気分転換を図っている。長男とは関係が良好であり、他の家族より、一緒にいると比較的落ち着いていることが多いようである。しかし妻に対しては、他の家族より本人はきつい言動・対応をしている。また、長女や次男の妻が実家を訪れることも時々ある。次男の妻は、主介護者の妻が自宅で介護している時に手伝うこともある。受診などは、妻と長女が付き添いを行っている。最近になり、長男と2人での受診も多くなってきている。
本人の意向 本人からの言葉はなかなか引き出せないが、落ち着ける場所が欲しい・穏やかに自分らしく過ごしたいという思いが汲み取れる。
事例の発生場所 デイサービスセンター
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