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事例ワークシート 事例59

A 課題の整理Ⅰ 援助者が感じている課題

① 事例にあげた課題に対して、あなた自身が困っていること、負担に感じていること等を具体的にみていきましょう。

・スタッフが求める切り方とは違う。
・スタッフが言った人数分を盛り付けて欲しい。
・まだ乗せる物があるから配膳しないで欲しい。

上記のことを踏まえ、
・「ちょっと待って。」という言葉が出てしまう。
・Aさんのペースではなく、スタッフのペースになってしまっている。
・何度もAさんに説明している。

ひもとき?
Aさんに認知機能障害があることが上記のようなことを理解できない理由になっていますか?
援助者の視点

短期記憶は保つことができないため、関係性はあると思います。
具体的には調理の説明直後は「そうか」と納得しますが、すぐに忘れてしまい、自分の思い込んだ料理の切り方になるなど、依頼した切り方とは全く異なってしまいます。

ひもとき?
スタッフが「ちょっと待って」という言葉を出しやすい時間帯はありますか?
援助者の視点

調理のときや、食事の配膳のときが、特に多く出しやすいです。

B 課題の整理 Ⅱ 援助者が想定する対応・方針

② あなたは、この方に「どんな姿」や「状態」になって欲しいのですか。

・自信を持って、家事に参加して欲しい。
・本人が「自分で作った」、「自分がやった」と思って欲しい。
・教えてもらって行うのではなく、Aさんがスタッフに教えながら家事にかかわって欲しい。
・自分が働くことで、自分がとても役に立っているなど、達成感を持って欲しい。

ひもとき?
他の人たちはスタッフの思いを理解してくれますか?
援助者の視点

他のスタッフは、理解しようとしていますが、どうやって実行したらいいのか分からず、スタッフ主体の動きになってしまっています。
他の入居者は、Aさんをよく働く人だと思っており、一緒に家事を行ったり、Aさんに頼る部分もありますが、スタッフのこういった思いを理解、行動していないと思います。
家族は理解しており、ありがたいと言ってくれています。

ひもとき?
Aさんがスタッフの言うことを理解できている割合はどの程度(何割程度)でしょうか?
援助者の視点

8割程度理解していると思います。「ちょっと待って。」と言えば待っていますし、切り方も直後は、伝えたようにできます。ただ、すぐに忘れてしまうので、だんだんとできなくなってしまいます。

③ そのために、当面どんな取り組みをしたいと考えていますか(考えましたか)。

・魚をおろすのは得意なので、お願いしている。
・野菜の切り方や味付けなど、Aさんと一緒に考えたり、教えてもらえるような声掛けをしている。
・ひとつ見本を作り、それを見本にして盛り付けてもらう。
・間違えてしまったとしても否定せず、Aさんの見ていないところで直す。
・Aさん1人に任せるのではなく、スタッフも一緒に入り、さりげなくフォローする。

ひもとき?
Aさんはできることとできないことに差があると思いますか?
援助者の視点

魚の処理や、畑仕事などなじんだことは、よくできます。計算をしたり、文章を考えたり、頭を使うことは苦手としており、そういった部分では、差はあります。家族からも、勉強をしているところはあまり見たことがなく、体を動かしている方が多いとの情報をもらっています。
盛り付けなどでも、複数の食材を均等に盛り付けることができなくなっており、調理の部分でも、差は少しずつ出ています。

ひもとき?
さりげなく支援するために、スタッフが話し合って心掛けていることはありますか?
援助者の視点

・Aさんが調理を行っているときは、声を掛け過ぎず、Aさんの動きに合わせて、声掛けをするようにしていますが、スタッフにまだ、ばらつきがあります。また、新人スタッフも多く、Aさんを理解できていないところもあり、まだ統一できていません。
・「この大根をみそ汁用にしたいんだ」とAさんに伝え、Aさんの好きなように切ってもらっています。
・煮物など複数を均等にバランスよく盛り付ける料理ではなく、和え物や、ポテトサラダなどの混ぜ合わせた料理を、盛り付けてもらっています。理由として、均等にというのはむずかしいが、皿に対してこの位の量、というのはAさんが考えて行えるためです。
・配膳の際、危険のないもの(冷めているもの)は行ってもらっているが、味噌汁などのあたたかいまま提供するものもAさんが行おうとするので、他の入居者に食事ができたことを知らせに行ってもらうようにしています。Aさんは、これを仕事のように感じているようです。
・魚に塩を振るときは、つけ過ぎるのを防ぐためにスタッフが適量を別のお皿に入れて、Aさんに渡しています。家族からも、塩をつけ過ぎて食べられないときもあったとの情報を得ています。

C 本人の状態や状況を事実に基づいて確認してみよう

④ 困っている場面で、本人が口にする言葉、表情やしぐさ等を含めた行動や様子等を事実に基づいてみていきましょう。

・部屋で1人、しょんぼりしていることがある。
・言葉はあまり出さず、落ち込んだ表情を見せる。
・「あの板長威張っているぞ。」とスタッフへ言ってくることもある。

ひもとき?
スタッフがAさんのしぐさで心温まることがあれば教えてください。
援助者の視点

・家族の話をしているとき。
・小さな子どもとかかわっているときの表情。
・味見をしたときの「うまい」といった表情。
・昔から好きな盆踊りを踊っているときの表情。
・一生懸命働いている姿。
・芋掘りをした際、芋がたくさん採れたことで歓喜したとき。
・面会に来た息子が帰る際、必ず「気を付けて歩けぇ。」と言い、姿が見えなくなるまで見送っている姿。
・夜、トイレの後などで、布団に入るたびにスタッフに手を振ってくれる。

ひもとき?
しょんぼりしているのを見かけたとき、スタッフはどのように対応しますか?
援助者の視点

・Aさんの側へ行き話し掛けたり、Aさんの持っている写真などを見たりして気分転換を図ります。
・他のユニットへ行き、気の合う入居者と話をしたり、活動に参加したりしています。
・家事に誘ったり、天気が良ければ外へ行ったりします。

D 課題の背景や原因等の整理

⑤ 本人にとっての行動や言葉の意味を理解するために、思考展開シートを使って、課題の背景や原因を考えてみましょう。

思考展開シート

・Aさんは、今住んでいるところを(これまで住んできた)島だと思っており、Aさんの行いたいこと、習慣づいている生活と現在の活動にはズレがある。
・Aさんは仕事をしたいと願っているので、スタッフは家事を依頼しているが、過剰に頼っているのではないか?
・一方的に料理の手順を決められると、イライラする。否定されると、落ち込む。
・スタッフの都合で、Aさんの行きたいときに、洗濯物干しなど外へ行けない。
・「頭が痛い、ボーっとする、頭がグルグルする。」など訴えがある。

ひもとき?
上に書いたようなことから、スタッフがAさんにこれまでとは異なる接し方をするようになりましたか?
援助者の視点

モニタリングを行った際、スタッフへ、口を出し過ぎていることを伝えたり話し合ったりしているが、ほとんど変わっていないのが現状です。他のスタッフも頭では理解している様子だが言動は変わったことはありません。家事だけでなく、Aさんの好きな盆踊りやお手玉などの活動を取り入れています。その時は、生き生きとしてやっています。他のユニットへ行き、活動やだんらんに参加したりしています。

E 事例に書いた課題を本人の視点に置き換えて考えてみよう

ここで、この事例を本人の立場から、もう一度考えてみましょう。

⑥ 本人の言葉や様子から、本人が困って(悩んで)いること、求めていることは、どんなことだと思いますか?

・漁業に関する仕事ができない。
 「昆布あそこに干してあるから、取りに行くんだ。」「タコ上がってくる時間なはずだ。」
・何でもいいから仕事を、自由にやりたい。否定しないで欲しい。
・夫がいなくて不安。
 「父さんどこ行った?まだ帰ってこないのか?」

ひもとき?
このようなAさんの気持ちに添ったケアができるように、スタッフが連携することがあるでしょうか?
援助者の視点

Aさんの希望や思いを、スタッフ全員が統一した考えで周知すること。

F 課題解決に向けた 新たなアイディア

⑦ あなたが、このワークシートを通じて思いついたケアプランなど、新しいアイディアを考えてみましょう。

・魚のすり身や、昆布料理など、島の特産物を使用しての料理をAさんが主となって作る。
・畑作業を一緒に行う。(草むしり、野菜の収穫)
・Aさんが、外を気にする時間を把握し、スタッフからAさんを誘う。
・写真を見たりしながら、Aさんの生き生きと働いていたころの話をゆっくり聞く。
・スタッフと一緒に、他者の手伝いをする。

ひもとき?
スタッフの人手がないにもかかわらず、このような対応をしようと考えたことは、スタッフの皆がこの人らしく生活してもらいたいという思いを強く感じている証しだと思います。
その思いがかえってスタッフの過重な負担にならないように、皆が分担するような話し合いはしましたか?
援助者の視点

Aさんの活動や家事に関して、分担していることは基本的にはありません。魚を買いに行くのは当日の買い物担当者と一緒に行き、すり身を作るのは、当日の調理担当者と行っています。Aさんに対しての話し合いはありますが、自分たちに対しての話し合いは行っていません。

ひもとき?
家族の関係が良好なようですから、これまでにも何か家族の力を活用できたことがありましたか?また、家族にスタッフが感じている「課題」を話して協働することはありましたか?
援助者の視点

自分たちから依頼したことはありませんが、家族が友人や親族の所に連れて行ってくれ、なじみの顔に定期的に会うよう配慮してくれています。お盆には自宅のある島に帰ったこともあります。島から特産物を送ってくれます。Aさんの調理を後押しするよう使用しやすい食材を持ってきてくれたときもありました。
課題やスタッフが気になっていることは、常に家族に報告し意見をもらっています。

ひもときアドバイス

 子どものころから家の手伝いをし、結婚後は夫を支え子どもを育ててきた女性が、入居後も自分の島で生活していると思ってこれまでの生活パターンを繰り返しているといった状況です。
 思考展開シートの質問に対する回答に、脳外科受診に際して「脳の萎縮がなく血管にも異常がない」と言われたことで、スタッフにはAさんの状態像に対する認識のばらつきができているのではないでしょうか。高血圧の既往もあり、HDS-Rが6点であることを考えると、これまでに習慣づいていることは不思議な程できるにもかかわらず、できないこととの差が大きくなる傾向が出ると思われます。
 新入りのスタッフもいる中で、少ない人手でもAさんの気持ちを理解しようとしているスタッフの真摯な姿が感じられます。
 幸いなことに家族が遠方からでもAさんのために密なかかわりをしてくれること、そしてスタッフの努力を認め、感謝してくれていることが大きな力になっていると思います。
 できればAさんの認知症の程度、できることとできないことの「差の大きさ」を別の医療機関のセカンドオピニオンなど活用することも大切でしょう。スタッフ間で統一されたイメージを持ち、かかわってくれるとよりAさんを良く理解できると思います。
 特に、事例提供者がこの人の背景(出身地や生活歴など)を深く理解し、そこでの「その人らしさ」をグループホームでも活かしながらケアをしようと努めている姿を高く評価したいと思います。

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