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事例ワークシート 事例64

A 課題の整理Ⅰ 援助者が感じている課題

① 事例にあげた課題に対して、あなた自身が困っていること、負担に感じていること等を具体的にみていきましょう。

・不安定になると興奮し、立ち上がって歩こうとするため、スタッフの数が少ないときや夜間帯に、Aさんから離れられず、何も仕事ができなくなってしまう。
・難聴、白内障があり、コミュニケーションを取ることや会話が難しい。
・ソファや椅子に起きてもらうが、数分で「横になりたい」と訴えるため、気分転換が難しい。

B 課題の整理 Ⅱ 援助者が想定する対応・方針

② あなたは、この方に「どんな姿」や「状態」になってほしいのですか。

・いつでも家に帰れる安心感を持ち、スタッフの言葉に安心してもらいたい。
・屋外や中庭を散歩し、少しでも気分転換につながればと思う。

ひもとき?
スタッフの言葉に安心してもらうためには、どのような工夫をしていますか?
援助者の視点

興奮するとスタッフの言葉が耳に入らないので、紙に書き、読んでもらう。手を握り、Aさんの視界に入り、興奮が収まってから話し掛ける。

ひもとき?
中庭の散歩以外で、どのようなことが気分転換につながると思いますか?
援助者の視点

手作業(洗濯たたみ、ひも通し)、自宅や自宅付近への外出、二人きりで話(楽しかったことなど)をする。

③ そのために、当面どんな取り組みをしたいと考えていますか(考えましたか)。

・体調が良ければ、なるべく居室から出て、散歩をしたりかかわりを持ったりする。
・不安定なときには、何度でも安心してもらえるよう声を掛け、孤独感を感じないようにかかわる。
・もう一度、自宅への外出支援を企画する。

ひもとき?
散歩に出られないときに、居室内でもできるかかわりはどのようなことがありますか?
援助者の視点

手作業(洗濯たたみ、ひも通し)、椅子に座ってできる簡単な運動。

ひもとき?
不安定なときはどのようなときですか?また、どんなかかわりがAさんにとって安心なのでしょうか?
援助者の視点

不安定なときは、帰宅欲求、泣く、自分の名前や住所や家族の名前を大声で話す。「お金は一銭も持っていない。」と言う。Aさんは、不安にかられてもスタッフの言葉で安心できる。一人ではないこと、家族とつながっていることが理解できると安心できる。

C 本人の状態や状況を事実に基づいて確認してみよう

④ 困っている場面で、本人が口にする言葉、表情やしぐさ等を含めた行動や様子等を事実に基づいてみていきましょう。

・「Aです。○○(地名)に帰りたい。」と、お経を唱えるような口調で言う。
・「ここはどこ?家に帰りたい。」と、眉間にしわを寄せて、話し口調で言う。
・「分からない。教えてー。」と、すがるようにスタッフの手を強く握る。

D 課題の背景や原因等の整理

⑤ 本人にとっての行動や言葉の意味を理解するために、思考展開シートを使って、課題の背景や原因を考えてみましょう。

思考展開シート

・長女と暮らしていた生活から記憶が止まっているのではないか。そして、長女の死がAさんに大きな悲しみを与え、長女の死を忘れているが、そのときの悲しみは強く残っており、何かの拍子に記憶とのズレが生じ、大きな不安や困惑から身近にいるスタッフの姿を求め、不安にかられるのではないか。
・長女の死を受け入れられていない。

E 事例に書いた課題を本人の視点に置き換えて考えてみよう

ここで、この事例を本人の立場から、もう一度考えてみましょう。

⑥ 本人の言葉や様子から、本人が困って(悩んで)いること、求めていることは、どんなことだと思いますか?

長女と暮らしていた家に帰らせてほしい。家族が待っているから帰らないと心配する。どうしたらいいのか、教えてほしい。一人にしないでほしい。

ひもとき?
Aさんが安心できるのはどのようなときですか?もしも、不安を増長させるようなことがあるとしたら、どんなことが考えられますか?
援助者の視点

不安なことへの説明が理解できたときに安心する。一人になるときの孤独感や、ここがどこなのか分からないときに話して教えてくれないことで不安が増長する。

F 課題解決に向けた 新たなアイディア

⑦ あなたが、このワークシートを通じて思いついたケアプランなど、新しいアイディアを考えてみましょう。

・長女と暮らしていた家への外出支援をする。
・家にあったなじみの物があれば、居室に飾る。(家族と相談)
・居室に神棚を作り、毎日拝める環境をつくり、心のよりどころとなるようにする。

ひもとき?
施設にいても、安心できるためには何が必要だと思いますか?
援助者の視点

施設にいても大丈夫だと安心できる環境。不安になったとき、スタッフが何度でも本人が理解・安心できるまで説明したり話をしたりしてくれること。

ひもとき?
神棚はAさんが望むことですか?また、拝むのは以前からの習慣ですか?
援助者の視点

Aさんの望みではありません。拝む習慣があったのかは分かりませんが、昔の方は神様に手を合わせることで安心につながるのではないかと思いました。

ひもときアドバイス

認知症の人は、さまざまな障害が原因で不安を抱えて生活しています。この事例では、涙を流しながら「ここがどこなのか分からない」と訴えるAさんの「不安」を、スタッフがいかに共感できるかが重要になります。Aさんは、"今がいつなのか分からない"、"ここがどこなのか分からない"といった時間の見当識障害が原因で、毎日不安を抱えていると考えられます。また、頼りにしている人の急死の悲しみは強く残っており、記憶障害によりその人と暮らしていた生活の遠い過去の記憶と現在の記憶が混同してしまっているのかもしれません。大きな不安や困惑から、身近にいるスタッフの姿を求めるのは、自然な行為といえます。
 帰宅欲求の場合、こうした障害に加えてほかにもいろいろな原因が影響していると考えられます。例えば、不安な気持ちを抱えている上に、自分の役割がなく、生活に意欲が持てない。あるいは、周りに信頼できる人がいない寂しさもあるかもしれません。また、空腹や体調不良、"騒がしくて落ち着かない"といった環境の要因などです。こうしたさまざまな要因が不快な感情を引き起こし、"安心できる場所へ逃れたい"という気持ちが、帰宅欲求となって現れる場合が少なくありません。
 帰宅欲求で大切なことは、本人の視点に立って、何らかの原因から"帰りたい"、"この場を離れたい"と本人が感じているのかもしれない、と捉えてみることです。そうすることで、その対応にはたくさんの可能性があることに気づくでしょう。例えば、"昼間の過ごし方はどうだったか"、"体調はどうか"、"スタッフの対応はどうだったか"など、さまざまな視点から、原因を探すことができます。スタッフが協働して、Aさんの気持ちになって原因を探ろうとする姿勢を大切にしながら、Aさんに対する今後のケアを模索していくことを期待します。

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