① 事例にあげた課題に対して、あなた自身が困っていること、負担に感じていること等を具体的にみていきましょう。
入居して3ヵ月程経過したが、なかなか他の利用者との関わりがなく、居室にこもりがちで、居室はゴミがすぐに散らかってしまうものの、自分で片付けることが出来ない。
他の人に、居室の物を触られるのを頑なに嫌がり、物が無くなると「盗まれました。」と強い訴えがあり、困っている。家族との関係が悪く、会ってもらえないことにも困っている。
居室の物は少しでも触られると嫌がる。ゴミやこぼれた物を触ることはあまり嫌がらない。
このようなことに加え、Aさん自身が「神経質な性格だから」と話すことより、職員との関わりへの拒否ではないと認識している。
ある程度の認識はある様子である。しかし、片付け忘れた際などに「盗まれた」と他人のせいにすることが多く見られる。
② あなたは、この方に「どんな姿」や「状態」になって欲しいのですか。
家族や他の利用者と穏やかに話が出来るようになって欲しい。
家族に看取られて、安心して最期を迎えてもらいたい。
③ そのために、当面どんな取り組みをしたいと考えていますか(考えましたか)。
まずは居室でゆっくり職員との会話を増やし、馴染みの関係を作り、他の利用者とお茶が飲めるようにと考えている。
ユニットの職員全員と考えている。
自慢話をする際に表情が良くなるため、こうした話題を多くしていく。
Aさんにとっての気分転換の在り方を模索する。
④ 困っている場面で、本人が口にする言葉、表情やしぐさ等を含めた行動や様子等を事実に基づいてみていきましょう。
・「私、弟に騙されてここに来ました!」と涙声で強く訴える。
・「もう胸が苦しい、早く救急車を呼んで!」「弟を呼んで!」とフロアに出て来て、強く訴える。
・「ここには泥棒がいます。私のパンツまで盗まれました。」と毅然として言う。
体調不良と精神的ストレスが救急車や弟を呼ぶ行為に繋がっていると思われる。
朝から夕方にかけて見られる。
寂しくて、悔しい思いについて誰かに話を聞いて欲しいという強い思いだと捉えている。
⑤ 本人にとっての行動や言葉の意味を理解するために、思考展開シートを使って、課題の背景や原因を考えてみましょう。
兄弟を相次いで亡くしてから淋しくなり、ここ数年は人を疑うようになった。物盗られ妄想や被害妄想が強く、周囲とのトラブルも多くなっていった。兄弟とのトラブルから孤立するようになり、余計に孤立した。
疑い深くなったのは、その前からである。認知症の診断は当事業所入居直前であるため、認知症による性格の変容ではないと捉えている。
ここで、この事例を本人の立場から、もう一度考えてみましょう。
⑥ 本人の言葉や様子から、本人が困って(悩んで)いること、求めていることは、どんなことだと思いますか?
・淋しいから、もっと話を聞いて欲しい。
・何故、ここにいなくてはいけないのか、納得出来る説明が欲しい。
・イライラする時は、甘いものを好きなだけ食べたい。
誰も自分のことを解ってくれない淋しさだと捉えている。
ここに入居をする際に関わった人には不信感があるため、兄弟や馴染みの方からの説得があると良い。
好きな時に欲求を満たしてくれる支援があれば良いのかもしれないが、その欲求とは食欲や帰宅願望であるために、難しいと思う。
⑦ あなたが、このワークシートを通じて思いついたケアプランなど、新しいアイディアを考えてみましょう。
・一日1回は心に寄り添って長く言葉に耳を傾ける。
・健康を考えて、甘いがカロリーの低いおやつを提供する。
・弟の言葉にも耳を傾け、以前のように穏やかに兄弟が話せるようになる。
その人を理解しようと知ること、諦めないことが求められると考える。
長く言葉に耳を傾けたところ、不穏状態が増してきた。
何がしたいかを感じて、聴くことが必要だと感じている。
可能だが、すぐに食べたくなり興奮する。
お互いに思い合っていることに関して伝え合えるように、その橋渡し役を私どもが担えるよう信頼関係を築いていこうと考えている。
今まで大変な部分だけを見てしまい 利用者本位の考えが出来なくなっていた。
どんなに忙しくても、利用者の思いを忘れては本末転倒だと反省した。
措置制度から介護保険制度へと移行され、サービスの多様化と共にその選択場面でも自己決定が可能となりました。しかし、サービス利用の多くは家族による決定が多く、認知症の人本人の自己決定は少ないように思われます。
本事例においても、本人の決定、言い換えれば理解、納得がないまま生活の場所が変わったことに対しての不満、不信や混乱を来たし、それがBPSDとして表出されています。今回、事例提供者はひもときシートを活用することで本人の思いや辛さを推測し、それに基づいたアプローチへと繋がりました。
生活支援場面では本人が表出するBPSDを軽減し、主体的で安心感、満足感が得られるよう場面毎に直接処遇的アプローチが求められます。
同時に不安や混乱を来たしてから対応するだけでなく、予防的視点によるアプローチへと発展、深化させていくことも大切になると考えます。記述の通り、サービス利用場面においては、本人の自己決定が十分とは言えません。そのような状況の中、それぞれの事業所において、サービス選択時に本人の自己決定の尊重をどのように担保していくと良いのか、またサービス利用に際して本人の理解、納得が得られるような試みはどのようなことが考えられるのか、という視点での検討とアプローチを期待します。