「事例を探す」

事例ワークシート 事例55

A 課題の整理Ⅰ 援助者が感じている課題

① 事例にあげた課題に対して、あなた自身が困っていること、負担に感じていること等を具体的にみていきましょう。

グループホームに帰って来ても、帰宅願望があり、不穏になると外へ出て行くことがある。

ひもとき?
どのようなときに不穏になりますか。また、どのように対応していますか。
援助者の視点

午後、誰も相手にしてくれないときです。話をしたりして、気を紛らします。

ひもとき?
その対応で、不穏が解消され外へ出て行くことがなくなりますか。
援助者の視点

職員の対応によっては、出て行くことはなくなります。

B 課題の整理 Ⅱ 援助者が想定する対応・方針

② あなたは、この方に「どんな姿」や「状態」になってほしいのですか。

グループホームを自分の居場所として、認識してもらう。

③ そのために、当面どんな取り組みをしたいと考えていますか(考えましたか)。

グループホームを自分の居場所として、認識してもらう。

ひもとき?
・家族(夫)の対応については、話をしても改善されないため、Aさんがグループホームの中で役割を持ち、安心して生活できるような関わり方を考えていく。
・地域の中で、徘徊が発見されたときに、情報がもらえるような環境を作っていきたい。
援助者の視点

家族とは、どの程度の関わりがありますか。また、Aさんの好きなこと興味のあることは何ですか。

ひもとき?
月に1回程度の外泊。踊りが好き。
援助者の視点

Aさんが役割を持つとしたら、どのようなことが考えられますか。

ひもとき?
隣に認知症の方が来て、相手をお願いすると、体調が良ければ相手になってくれます。
食事の配膳、庭掃除、廊下掃除などです。
援助者の視点

地域に何か働きかけたり、働きかけようとしたりしたことはありますか。

ひもとき?
働きかけはできていません。
援助者の視点

地域とは、自宅の地域を指すのでしょうか。それとも、グループホームの地域を指すのでしょうか。それとも両方とも同じ地域なのでしょうか。その地域に人材の社会資源はどの程度あるのでしょうか。また、キーパーソンになる方はいますか。

C 本人の状態や状況を事実に基づいて確認してみよう

④ 困っている場面で、本人が口にする言葉、表情やしぐさ等を含めた行動や様子等を事実に基づいてみていきましょう。

・「父さんに会いたい。」「母さんに会いたい。」
・精神的に不安になると、頭痛や足にけいれんが起きてくる。

ひもとき?
「~会いたい」には、どのような意味があると思いますか。
援助者の視点

安心したい。ほっとしたい。

ひもとき?
会って「安心したい。ほっとしたい。」とのことですが、さらにひもとくと、どのような気持ちから発信された言葉だと思いますか。
援助者の視点

今は、一人ぼっちで寂しい。

D 課題の背景や原因等の整理

⑤ 本人にとっての行動や言葉の意味を理解するために、思考展開シートを使って、課題の背景や原因を考えてみましょう。

思考展開シート

・夫との関わりによっては二人で生活できるが、今の状態では、夫の対応で家を出て行くことがある。
・自分の家にいても、「家に帰る。」と言って、外へ出てしまう。

ひもとき?
個別単位ではなく、夫婦単位の生活支援、ケアの可能性はありますか。
援助者の視点

入居前、二人とも生活保護を受給しており、難しいと思います。

ひもとき?
自分の家にいても、なぜ「家に帰る。」と言うと思いますか。
援助者の視点

自分が育った家でなかったり、不安(夫の態度など)があったりしたときに、安心できる場所を捜すのではないでしょうか。

ひもとき?
生活保護であっても、夫を支えるフォーマル、インフォーマルの社会資源があれば、自宅での生活は可能だと思いますが、その可能性はありませんか。
援助者の視点

社会資源はあると思いますが、夫に対しては、難しいと思われます。最近は、日中でも飲酒しており、夫自身が介護の対象になっていると思われます。

E 事例に書いた課題を本人の視点に置き換えて考えてみよう

ここで、この事例を本人の立場から、もう一度考えてみましょう。

⑥ 本人の言葉や様子から、本人が困って(悩んで)いること、求めていることは、どんなことだと思いますか?

・父さんに会いたいが、お酒を飲むと父さんは何もしてくれず、不安になる。
・自宅に戻り、安心して生活したい。
・母さんに会いたい。

ひもとき?
Aさんにとって夫は、どのような存在ですか。
援助者の視点

現在は、会いたい人ではありますが、全てを任せきれない面も感じていると思います。

ひもとき?
夫にもっと会える工夫は?夫にできる役割は?どのようなことが考えられると思いますか。
援助者の視点

Aさんが安心できる関係です。(優しく話を聞いてくれる。自分のことを拒否しない。暴力的な態度をとらない。お酒を飲んでも変わらない。)そうすれば、今よりは安定するのではないかと思われます。

F 課題解決に向けた 新たなアイディア

⑦ あなたが、このワークシートを通じて思いついたケアプランなど、新しいアイディアを考えてみましょう。

・スタッフの毎日の声掛け、関わり。
・役割(茶碗拭き、掃除など)を持ってもらう。
・一人だけ過剰介護しない。
・優しく接する。
・町内会の方と話し合いを持ち、認知症の方の理解を得るような取り組みを行う。

ひもとき?
町内会などの近隣の理解や協力体制は、どの程度望めますか。
援助者の視点

現在、身近な所から、認知症の方を理解してもらうための取り組みを始めようとしています。

ひもとき?
具体的には、どのような取り組みを考えていますか。
援助者の視点

町内会の役員の方を対象とした認知症の勉強会の開催と、徘徊する人、一人暮らしのお年寄り、相談について、地域包括支援センターとの連携です。

ひもとき?
子供たちとの関係を今後どのように考えていきますか。
援助者の視点

夫と相談しながら、面会に来てもらったり、いろいろな情報をもらえたりするように話をしていきたいです。

ひもとき?
面会に来た子供たちに、どのように関わってもらいたいですか。また、どのような情報をもらいたいですか。
援助者の視点

現在、Aさんから子供たちのことを話さないので、面会に来ることでAさんがどのようになるのか、また、夫から昔の話が十分に聞けないので、過去の家庭のことや仕事のことなどの情報が収集できればと考えます。

ひもとき?
これまでひもといてきた中で、ある程度の課題や方向性が見えてきたのではないかと思われます。グループホームを自分の居場所として認識してもらうためにも、一人ぼっちで寂しい思いをさせないためにも、夫、子供たち、本人、地域、職員、それぞれにできることがあるように思われますので、以下の6項目についてできるだけ具体的に考えてみて下さい。
①具体的に夫へは、どのように働きかけますか。
②具体的に子供たちへは、どのように働きかけますか。
③Aさんが興味を持ち、役割として実際にできそうなことは何ですか。
④地域での働きかけを始めたようですが、さらなる具体的な展開は考えられますか。
⑤スタッフの指示的な言葉遣いに、不満や精神的な不安が見られるようですが、具体的に改善できるとしたらどのようなことですか。
⑥Aさんが出て行かない関わりをしている職員の対応をヒントに、望ましい対応を検討したり、さらに全職員で共有化したりできませんか。
援助者の視点

①Aさんに対して、認知症を理解した上での対応をして欲しいが、現在の状況では、夫自身が介護の対象になっていると思われるので、できる限りは話をしていくつもりです。
②子供たちとは随分疎遠になっているので、夫を通して連絡を取ってもらうつもりです。
③職員が一緒にやれば、掃除や他者との関わりも可能だと思われますが、一人でやることを何かお願いする場合は、状況によると思われます。掃除、庭掃除、廊下掃除などです。
④まだ、町内会の役員の方に、認知症の理解についての話をさせてもらう段階です。今後は、地域包括支援センターとの連携により、地域での徘徊する人などの見守りの体制を作っていく考えです。
⑤全員で、認知症の方への対応について再確認し、関わる時間や関わり方を共有していく。時間帯による様子や夫の面会後などの状況を観察して検討していくつもりです。
⑥全体としては、落ち着いてきていると思います。ただ、季節(冬季)的な問題もありますので、今後は、夏場においての対応(玄関、バルコニーなどの出入り口に気をつける)について、職員間で検討していかなければと考えます。

ひもときアドバイス

 この事例には、単なる徘徊や帰宅願望だけではなく、家族支援や地域連携の要素が多分に含まれています。本人の願望として、夫に会いたいとの気持ちが強いのですが、その夫にもさまざまな事情があり、在宅生活は困難な状況です。また、その他の家族の支援も期待できない環境にあります。グループホームをいかに自分の居場所として認識してもらうかが、現在の課題でしょう。まずは、帰宅願望以外の希望やニーズも把握し、本人の役割や楽しみ事を増やしていくことが重要であると考えます。また、スタッフの対応にもばらつきがあったようですが、会議や研修などを通じて徐々に改善できてきたのは喜ばしいことです。
 それから、疎遠だった娘が夫と一緒に面会に来たことも、寂しがり屋の本人にとっては、これからの生活を安定させたり、豊かにしたりしていく可能性を秘めていますので、今後も緊密に連絡を取り合うことをお勧めします。地域での見守りについては、これまであまり活発でなかった運営推進会議の定期開催や、地域での認知症研修会の企画、行政及び地域包括支援センターの活用が図られつつある点など、大いに期待するところです。
 本事例の課題には、さまざまな要因があり着眼点も多岐にわたりますが、本人の立場になって一つひとつクリアしていくことと、スタッフ全員が認知症ケアを理解し、チームとしてアプローチしていくことが大切です。また、地域のネットワーク構築には根気が必要になってきますが、連携の糸口が見つかっていますので、ぜひ継続して取り組んでもらいたいと思います。

前のページへ戻る
事例一覧へ戻る