① 事例にあげた課題に対して、あなた自身が困っていること、負担に感じていること等を具体的にみていきましょう。
グループホームに帰って来ても、帰宅願望があり、不穏になると外へ出て行くことがある。
午後、誰も相手にしてくれないときです。話をしたりして、気を紛らします。
職員の対応によっては、出て行くことはなくなります。
② あなたは、この方に「どんな姿」や「状態」になってほしいのですか。
グループホームを自分の居場所として、認識してもらう。
③ そのために、当面どんな取り組みをしたいと考えていますか(考えましたか)。
グループホームを自分の居場所として、認識してもらう。
家族とは、どの程度の関わりがありますか。また、Aさんの好きなこと興味のあることは何ですか。
Aさんが役割を持つとしたら、どのようなことが考えられますか。
地域に何か働きかけたり、働きかけようとしたりしたことはありますか。
地域とは、自宅の地域を指すのでしょうか。それとも、グループホームの地域を指すのでしょうか。それとも両方とも同じ地域なのでしょうか。その地域に人材の社会資源はどの程度あるのでしょうか。また、キーパーソンになる方はいますか。
④ 困っている場面で、本人が口にする言葉、表情やしぐさ等を含めた行動や様子等を事実に基づいてみていきましょう。
・「父さんに会いたい。」「母さんに会いたい。」
・精神的に不安になると、頭痛や足にけいれんが起きてくる。
安心したい。ほっとしたい。
今は、一人ぼっちで寂しい。
⑤ 本人にとっての行動や言葉の意味を理解するために、思考展開シートを使って、課題の背景や原因を考えてみましょう。
・夫との関わりによっては二人で生活できるが、今の状態では、夫の対応で家を出て行くことがある。
・自分の家にいても、「家に帰る。」と言って、外へ出てしまう。
入居前、二人とも生活保護を受給しており、難しいと思います。
自分が育った家でなかったり、不安(夫の態度など)があったりしたときに、安心できる場所を捜すのではないでしょうか。
社会資源はあると思いますが、夫に対しては、難しいと思われます。最近は、日中でも飲酒しており、夫自身が介護の対象になっていると思われます。
ここで、この事例を本人の立場から、もう一度考えてみましょう。
⑥ 本人の言葉や様子から、本人が困って(悩んで)いること、求めていることは、どんなことだと思いますか?
・父さんに会いたいが、お酒を飲むと父さんは何もしてくれず、不安になる。
・自宅に戻り、安心して生活したい。
・母さんに会いたい。
現在は、会いたい人ではありますが、全てを任せきれない面も感じていると思います。
Aさんが安心できる関係です。(優しく話を聞いてくれる。自分のことを拒否しない。暴力的な態度をとらない。お酒を飲んでも変わらない。)そうすれば、今よりは安定するのではないかと思われます。
⑦ あなたが、このワークシートを通じて思いついたケアプランなど、新しいアイディアを考えてみましょう。
・スタッフの毎日の声掛け、関わり。
・役割(茶碗拭き、掃除など)を持ってもらう。
・一人だけ過剰介護しない。
・優しく接する。
・町内会の方と話し合いを持ち、認知症の方の理解を得るような取り組みを行う。
現在、身近な所から、認知症の方を理解してもらうための取り組みを始めようとしています。
町内会の役員の方を対象とした認知症の勉強会の開催と、徘徊する人、一人暮らしのお年寄り、相談について、地域包括支援センターとの連携です。
夫と相談しながら、面会に来てもらったり、いろいろな情報をもらえたりするように話をしていきたいです。
現在、Aさんから子供たちのことを話さないので、面会に来ることでAさんがどのようになるのか、また、夫から昔の話が十分に聞けないので、過去の家庭のことや仕事のことなどの情報が収集できればと考えます。
①Aさんに対して、認知症を理解した上での対応をして欲しいが、現在の状況では、夫自身が介護の対象になっていると思われるので、できる限りは話をしていくつもりです。
②子供たちとは随分疎遠になっているので、夫を通して連絡を取ってもらうつもりです。
③職員が一緒にやれば、掃除や他者との関わりも可能だと思われますが、一人でやることを何かお願いする場合は、状況によると思われます。掃除、庭掃除、廊下掃除などです。
④まだ、町内会の役員の方に、認知症の理解についての話をさせてもらう段階です。今後は、地域包括支援センターとの連携により、地域での徘徊する人などの見守りの体制を作っていく考えです。
⑤全員で、認知症の方への対応について再確認し、関わる時間や関わり方を共有していく。時間帯による様子や夫の面会後などの状況を観察して検討していくつもりです。
⑥全体としては、落ち着いてきていると思います。ただ、季節(冬季)的な問題もありますので、今後は、夏場においての対応(玄関、バルコニーなどの出入り口に気をつける)について、職員間で検討していかなければと考えます。
この事例には、単なる徘徊や帰宅願望だけではなく、家族支援や地域連携の要素が多分に含まれています。本人の願望として、夫に会いたいとの気持ちが強いのですが、その夫にもさまざまな事情があり、在宅生活は困難な状況です。また、その他の家族の支援も期待できない環境にあります。グループホームをいかに自分の居場所として認識してもらうかが、現在の課題でしょう。まずは、帰宅願望以外の希望やニーズも把握し、本人の役割や楽しみ事を増やしていくことが重要であると考えます。また、スタッフの対応にもばらつきがあったようですが、会議や研修などを通じて徐々に改善できてきたのは喜ばしいことです。
それから、疎遠だった娘が夫と一緒に面会に来たことも、寂しがり屋の本人にとっては、これからの生活を安定させたり、豊かにしたりしていく可能性を秘めていますので、今後も緊密に連絡を取り合うことをお勧めします。地域での見守りについては、これまであまり活発でなかった運営推進会議の定期開催や、地域での認知症研修会の企画、行政及び地域包括支援センターの活用が図られつつある点など、大いに期待するところです。
本事例の課題には、さまざまな要因があり着眼点も多岐にわたりますが、本人の立場になって一つひとつクリアしていくことと、スタッフ全員が認知症ケアを理解し、チームとしてアプローチしていくことが大切です。また、地域のネットワーク構築には根気が必要になってきますが、連携の糸口が見つかっていますので、ぜひ継続して取り組んでもらいたいと思います。