① 事例にあげた課題に対して、あなた自身が困っていること、負担に感じていること等を具体的にみていきましょう。
自身の食事を周囲に分けようとする。Aさんの食事であることを伝えるが、会話が繋がりにくく、食べ方が分からなくなったり、食器をテーブルや床に置いたりしてしまう。
好き嫌いは関係なく断り、少々混乱している様子。
どのように対応したら良いかわからない。
朝はすっきりと目覚め、Aさんも混乱が少なく、穏やかに過ごしています。また、夕方になるに従い、不安や混乱が見られると感じます。
② あなたは、この方に「どんな姿」や「状態」になって欲しいのですか。
自分でスムーズに食べられる時もあるので、Aさんが穏やかに食事を楽しめるようになって欲しい。
周囲の様子に敏感に反応します。耳はとてもよく、周囲の声に返事をする場合や、Aさんが不快と感じている時は、露骨に表情で表します。朝食時は周囲が静かなため、食事に集中できるということも考えられます。
③ そのために、当面どんな取り組みをしたいと考えていますか(考えましたか)。
昼夜を通し、Aさんの様子を把握する。特に不安で戸惑ったり、混乱したりする前に着目し、原因を考える。
同時にAさんを取り巻く周囲の様子にも注意する。
日中は昼寝をすることはあまりありません。夜は就寝時間が遅めで、23時前後くらいです。
普段は謙虚な方で、「きれいですね」「素敵ですね」と口癖のように周囲を褒めています。しかし、混乱している時は、「できています!」「私はいいです!」と強い口調で話すことも多く、そのような時は、自分のプライドや見栄を張っての様子であるようにも思います。
④ 困っている場面で、本人が口にする言葉、表情やしぐさ等を含めた行動や様子等を事実に基づいてみていきましょう。
・「私はいいからあなた食べなさい。」
・一口食べると「もう、これでいいです。」と食器を置く。
・食事の仕方がわからなくなる。
・食事の介助は笑顔で受ける時と拒否する時がある。
・着用しているエプロンをつかんだり、「これをこうしてね。」と周囲の物を動かそうとしたりする。
ご飯茶わんや味噌汁お椀などの食器を比較的スムーズに使います。スプーンやフォークよりも箸の方が、長年使っていた感覚からか、使いやすいようです。そのため、食べ始めにそれらの食器に入った食事から勧めたり、麺類や丼物は器を変えて提供したりしています。
食事に集中できない様子だった場合は、少し様子をうかがい、Aさんの気持ちが落ち着いた頃に勧めています。
⑤ 本人にとっての行動や言葉の意味を理解するために、思考展開シートを使って、課題の背景や原因を考えてみましょう。
・周囲の様子を気にして、食事に集中できない。
・世話好きのため、自身よりも周囲の人を優先しようとする。
・食事の認識ができない。
穏やかに朝を迎えることができるようAさんのペースに合わせてモーニングケアを行っています。 <
ここで、この事例を本人の立場から、もう一度考えてみましょう。
⑥ 本人の言葉や様子から、本人が困って(悩んで)いること、求めていることは、どんなことだと思いますか?
・穏やかに落ち着いて食事を楽しみたい。
・食事の仕方を教えて欲しい。
気遣いのできる優しいAさんに食事を楽しんでもらうことが良いと感じます。
⑦ あなたが、このワークシートを通じて思いついたケアプランなど、新しいアイディアを考えてみましょう。
・食事に集中できるような環境作り(周囲の物音や声掛け)。
・排泄の間隔を確認し、Aさんの様子に合わせトイレ誘導を行う。
・持ちやすい食器にする。
・混乱している時には、好きな歌などを一緒に歌い落ち着けるように努める。
・食事に集中できないようであれば、場所を変えたり、食事の時間をずらしたりする。
・家にいた時は自身がやりたいと思うこと(特に家事)を行っていたが、現在行っていないため、Aさんがやりたいと思うことをできるよう見守り、充実感を得られるようにする。
当事業所に入居した当初は足腰がとてもしっかりしており、床に落ちた小さなゴミも拾ってくれていました。しかし現在は歩行が不安定でフロアの自分の席で過ごすことが多くなっています。Aさんが充実した毎日を過ごすことができるように、大好きな童謡を他の入居者と一緒に楽しめるよう、歌レクリエーションを多く取り入れています。
就寝時間が遅い(臥床しても眠れず、起きている)ことが続いた時、マイスリーを処方され、1日服用しましたが、服用してまもなく足がふらつき、立位が不安定になりました。すぐに臥床してもらいましたが、Aさんは身体の異変に逆に興奮し、眠れず、気がつくといつも入眠している時間になっていました。マイスリーはすぐ中止し様子をみることとなりました。
年明けくらいから、情緒不安定になることが多くみられ、笑顔で過ごしていても少しすると表情が険しくなり、興奮することが多くなりました。1月の末に事業所かかりつけの医師よりグラマリール錠を処方されて服用していますが、あまり効果はみられない様子です。来月まで様子をみながら、今後を考えていく予定です。
質問を通じて事例提供者はAさんの状態像の変化の「差」の大きさに気づいたと述べている。
穏やかな性格であって世話好きでもある人が突然に変わり、食事をしなくなり感情的になる。これに対してケアスタッフは細心の注意を払いつつケアをしている。
このケースで最も気になるのは、Aさんの状態像(特に意識レベル)が容易に変動することである。これに対してケアスタッフはすでに気づき、医療にも相談しているが、睡眠導入剤の調整が上手にできなかった時点で、服薬をやめてしまっている。回答にあるような睡眠導入剤は軽すぎると逆に「せん妄」を誘発することがあるため、もう少し医療との協力が必要であったかも知れない。
情緒不安定についても、医師から処方が出ているが、こまやかな服薬調整には至っていない。
ケアスタッフが適切にケアしている中で、このような状態変化からケアが難しくなっている場合に、これまで以上に医療との連携が求められる。その観点から考えると、このケースはケア側ではなく医療がもっと処方量なども含めて積極的に協力すべきであると考えられる。