① 事例にあげた課題に対して、あなた自身が困っていること、負担に感じていること等を具体的にみていきましょう。
・他者とのコミュニケーション時に急に怒り、大声を出したりテーブルを叩いたりしてしまう。
・自分の前に座っただけの入居者に、急に強い口調で話す。
・自分の前に座った入居者に対し、世話をしようとして何でも手を出してしまう。
Aさんの態度が変わり興奮して大声を出すことで、他の利用者も「どうしたんだろう」「うるさいな」と言葉や態度に表します。他の利用者へ影響を与えてしまうため、職員はマイナス感情を持ってしまうと思います。
良かれと思ってしていることが一方的な行為となってしまい、世話をしようとするが徐々に説教に変わり、暴言に発展してしまうのを見ると、説教好きな方なのかもしれないと思ってしまい、これはマイナス感情かもしれません。また、説教の内容は「こうしなくちゃいけない」というような内容であるため、まじめな方なのだなと感じます。
② あなたは、この方に「どんな姿」や「状態」になって欲しいのですか。
・他者と円滑なコミュニケーションが図れるようになって欲しい。
・他者と折り合いが悪くならないような関係作りをして欲しい。
他者75%本人25%。
③ そのために、当面どんな取り組みをしたいと考えていますか(考えましたか)。
・Aさんが現在、不安に思っていることは何か探してみる。
・家族との関わりが少ないため、家族の協力を得ながら関われる機会を作る。
・Aさんと気が合うような入居者との関わりを持ってもらう。
泣いたり、大きな声を出したり、テーブルを叩いたりすることだと思います。
息子は車で1時間半程の場所に住んでいて、娘は車で40分程の場所に住んでいます。一年に1回程の面会です。
④ 困っている場面で、本人が口にする言葉、表情やしぐさ等を含めた行動や様子等を事実に基づいてみていきましょう。
・「私がばかだから、何も言わないのかい。」
・「もういいよ、私をばかにして、ばかだからかい。」
・目をつり上げ顔をこわばらせる。テーブルを叩いたりする。
他者とコミュニケーションが取れないことへの怒りの感情。それはうまく表現できない自分に対して、理解してくれない他者に対して、何か分からないが思いどおりにならないことに対して、さまざまなことが重なっている怒りなのではないかと感じます。
⑤ 本人にとっての行動や言葉の意味を理解するために、思考展開シートを使って、課題の背景や原因を考えてみましょう。
・身体的な苦痛があり感情が不安定になってしまう。(便秘による腹痛や、長い時間椅子に座り過ごしていることでの疲れ)
・他者と関わりを持ち、世話をしてあげたいと思うが、気持ちが伝わらず理解されないため、ばかにされていると思ってしまう。
・仕事を通じて誰かの役に立ちたいと思っているが、日々できなくなることや分からなくなっていくことがあり、ばかになっていくようだと不安に思っている。
Aさんに対するイメージに大きな差はありませんが、私がAさんに対して固定的なイメージを持ってしまっているのかもしれないと考えるようになりました。
ここで、この事例を本人の立場から、もう一度考えてみましょう。
⑥ 本人の言葉や様子から、本人が困って(悩んで)いること、求めていることは、どんなことだと思いますか?
・もっと私のやりたいことを分かって話を聞いて欲しい。
・自信が持てるように役割や仕事をさせて欲しい。
・他者との関わり合いを持ちたいが、うまくいかない。
・身体的苦痛があるが、言葉では表現できない。
6割程度は可能だと思います。Aさんとの関わりを持つ時間を多くし、ユニットスタッフや他職種のスタッフとの連携によってケアを行っていくことが重要だと思います。
⑦ あなたが、このワークシートを通じて思いついたケアプランなど、新しいアイディアを考えてみましょう。
・役割を持ってもらった上で、リラックスできるような環境を作っていく。
・Aさんの居場所の再構築。
・Aさんがゆっくり話せる雰囲気作り。
・現在行っているタオルたたみ以外にも、水回りに興味を持っている様子があり、茶碗洗いやお茶入れなども行ってもらう。
・他者に対してもお茶を入れて提供できるような環境を作る。
・Aさんとのコミュニケーションを図る際の話の内容に留意する。
・食事内容を見直し便秘を防ぐ献立に配慮する。
・身体の緊張や苦痛をやわらげるための、足浴やマッサージを提供していく。
残念ながらまだ役割分担までは行っていませんが、居室担当職員とユニットスタッフが、Aさんにできそうな軽作業の役割提供を行っています。
スタッフの日々の思いやその日にあったことなど、ユニットノートに書いて共有しています。ノート上で励ましやアドバイスがあったりします。また、月1回ユニット会議を行って、業務やケアの改善のための話し合いを行います。スタッフ間のコミュニケーション不足を補うためにも大切な場です。
時に激しい行動や感情が出てしまう利用者を特別養護老人ホームでケアしている事例です。その人の混乱が始まると周囲の人に対して75%、本人に対して25%の重点配分になってしまうことなどについても十分な自己覚知を持っている介護職だと思います。
怒りの原因が決して1つではなく、自分を上手に表現できないことなど、複合的なものであるといった視点を広げ、今後の他職種連携、スタッフ連携に活かしてください。
思考展開シートの活用によって、自らが固定観念を持っていたのではないかと、新たな気づきが得られていることからも、この支援者の熱心さと真摯な関わりが感じられます。
普段の職員間での情報提供不足をユニットノートに記すことで補完し、さらにはスタッフ同士がお互いの評価を高めあうためのツールにしてくれることを願っています。