認知症の疾患。その他の疾患は無い。(検査等をしていない)
事例概要を見ると、テトラミドを一日おきに服用しています。この薬は抗うつ薬ですから高齢者に効き過ぎると焦燥感にもつながります。服薬や以前の「うつ」について医療者や家族から情報はありましたか?
「うつ」についての情報はない。入居前に、不眠がちで睡眠薬?(家族も薬をはっきり覚えていない)を一度だけ使ったことがあり、意識が朦朧とした状態で動き回る状態になり、「精神薬の服用はしたくない」との意向があった。経過の途中で大腿骨骨折による入退院あり。自力歩行にまで回復しているが、夜間の混乱により睡眠の確保が出来ず、テトラミドが処方される。少し落ち着いて過ごせる時間が出来、1日おき半錠にするなどの調整をしている。その後、入退院を経て、ADLが大きく変化している。
(2)身体的痛み、便秘・不眠・空腹等による苦痛の影響は考えられますか?
便秘傾向である。膝の痛みが強い。不眠傾向で睡眠の確保が難しい。満腹感が無く空腹。体のだるさ、つらさがあるが、しんどい時に座るなどのコントロールが出来ない。不穏時に幻視がある。
幻視などは以前からあったのでしょうか?こういった病的体験は、苦痛と比例して増えることがありますが、Aさんにもそういった点が見られますか?
大きく関連していると思う。入居当初より焦燥感が強く、常に不安の訴えがあった。キーパーソンの家族の名前を出し、話しをしたり、何かに集中できる作業を依頼したり、散歩やドライブなど外に出てゆったり関わったりすることで気分転換が図れ、夜間は比較的良眠できる状態から、徐々に夜間の不眠が3日に一度程度の周期で現われるようになっている。便秘による不快感、睡眠リズムが崩れることでの体調の不快、処理できない情報などが、幻視のような言動に繋がっているのではとも思う。
(3)悲しみ・怒り・寂しさ等の精神的苦痛、また本人の性格等の影響は考えられますか?
・今住んでいるところがどこなのか分からない。何故ここにいるのか?
・常に家族が傍にいるわけでない。幼い娘しか記憶になく、家族が面会に来ても誰だか理解できないこともある。
・子供の頃から頭のいい思慮深い人だった。今のはっきりしないわからないことが多い状況が、不安で仕方がない。
・「おばあさん、先生、どうして、どうして」など、誰かに助けや答えを求めようとしている。
・お金の心配がある。
(4)音・光・味・臭い・寒暖等感覚的な苦痛を与える刺激の影響は考えられますか?
音への反応が敏感である。大きい音に恐怖心を感じている。
刺激への過敏さは一日中同じ程度でしょうか、それとも時間による差がありますか?
視覚から入る情報(干してある自分の洗濯物や子供の名前が書いてあるものなど)にも落ち着かなくなる場面が多く見られ、直接的に不穏の要因になる刺激は極力少なくするように配慮していた。
一日を通して過敏な状態に思えるが、食後などお腹が膨れている時や眠くなってきてまどろんでいる時、娘などに囲まれている時は、比較的穏やかなモードで、夕方から夜間はより過敏で不安定なモードである。
(5)家族・介護者など周囲からの過剰、あるいは少なすぎる関わりの影響は考えられますか?
・他利用者と一緒に作業(家事、余暇)する等、楽しむ関わりが少ない。
・他利用者からの攻撃は多い。スタッフは散歩等多く関わっているのでは?
・作業が上手く出来ない分、スタッフの声掛けが過剰になってしまいがち。
娘たちとスタッフ皆とが話をする、あるいはAさんの情報を聞く機会はどの程度ありますか?
とても協力的な家族で、一緒にサポートしているという感覚が常にある。面会の際、Aさんのエピソードなど聞かせてもらったり、義理の息子の声掛けに安心する場面が多くあったりする。1年程は、少し娘の体調が悪く、面会に来られない状況だったが、他の家族の方がフォローしていた。
(6)障害程度・能力の発揮に対して、住まい・器具・物品等物的環境による影響は考えられますか?
・ ベッドマットが沈む。居室から出てすぐに他の利用者に注目され、攻撃される。
・ 居室の壁にカレンダーや服が掛かっていると気になって仕方ない。
・ 自分の名前、家族の名前の字を読むことが出来る。
部屋を出ると他の利用者から見られ攻撃されるといった「注察妄想」のようなものなのでしょうか?それとも本当にそのような環境での生活になっているのでしょうか?
妄想ではないと思える。居室が共有空間のリビングに面していたので、見渡しやすくわかりやすい反面、他者からも見られやすい環境だった。また、わからないと他者に答えを求めて繰り返し質問することで、他者から批難されてしまう結果になり、それを避けようと慌てて対応するスタッフの対応もマイナス要因になっていたと改めて思うが、小空間での他者との調整は、難しい課題であると感じる。また生活刺激が多いこともあり、大きい空間(特養)への移動の検討、試し利用も、家族の方も含め行ったが、環境の変化による本人の混乱を重視して見送り、現在の内服の調整に至っている。
(7)要望・障害程度・能力の発揮と、アクティビティー(活動)とのズレによる影響は考えられますか?
気分が落ち着いて楽しめるときに活動が提供できなかったり、気分が悪くて楽しめないときにレクリエーションに参加するなど、適時の対応が難しい。
スタッフ間で話し合った対処方法があれば教えてください。
その都度、今の状態に合わせた一日の過ごし方を検討した。休養を入れる、休養時間が長すぎないように、ソファでくつろぐ時間や外気に触れる時間などを作るよう配慮する、園児や小学生との交流会など楽しめるレクリエーションには参加してもらうなど。入居以来訪問しているボランティアの幼児の様子に微笑んで一緒に遊んであげるときが多く見られたが、食事や跳びはねるなどを気にして、不穏に繋がる場面も見られた。
認知症の進行と共に、関わりで気分の転換が図れないことが多くなっていったと思うが、状態の変化とともに少しでも安楽に過ごしてもらうことに焦点をあてるようにしていった。
(8)生活歴・価値観等に基づいた暮らし方と、現状とのズレによる影響は考えられますか?
模範的な主婦だったが、現在は家事が上手く出来ない。
⇒本人なりのやり方で流し台に立ってもらうこともいいのでは?
以前できていた野菜の皮むきなど、集中できるものがなくなってきてしまった。
現状での暮らしを妨げている混乱を軽減するために、医療との連携を考えたことがあれば教えてください。
排便がすっきり出ないことにより感情の高ぶりが強くなるため、下剤等の調整や、臀部のただれが見られた際は、皮膚科の往診を受けていた。不眠、夜間の不安感が強く、主治医から睡眠導入剤の処方を受けたこともあるが、転倒リスクが高く、服用せず。精神科の医師の受診を受けたこともあるが、意識が朦朧とした状態で動き回るので、継続して服用していない。主治医を経過途中で変更し、常に相談しながら、課題に対しては、医師と看護師も交えてカンファレンスをしていた。