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事例ワークシート 事例67

A 課題の整理Ⅰ 援助者が感じている課題

① 事例にあげた課題に対して、あなた自身が困っていること、負担に感じていること等を具体的にみていきましょう。

こだわりや執着心が強く、感情の起伏が激しいため、コミュニケーションがうまく取れず、会話が成立しない。

ひもとき?
こだわりや執着について、具体的に教えてください。
援助者の視点

こだわり・執着については、
・仏具を買いに連れて行ってほしい、葬式があるから赤飯を準備してほしいなどの訴え
・食べ物(饅頭・みかん・他者が食べている物など)が欲しい、食べ物を家族に分けるから家族分欲しいとの訴え
・植物を家に持って帰りたいとの思いがあり、壁やテーブルに飾ってある物、プランターなど土に植えてある物や草も抜き、何かに包むのではなくそのまま持っている
・何かが欲しい!!と思ったら何でも手にしようとし、服の中や膝の上、背部に隠していることが頻繁にあった

ひもとき?
感情が高ぶる場面を具体的に教えてください。
援助者の視点

車椅子を自操しているときや、食事をしているとき、何かを物色しているとき、眉間にしわを寄せ表情が険しいとき、何かを持っているときなど、いろいろな場面でスタッフが声を掛けると反発します。

ひもとき?
日ごろのコミュニケーションは取れているのですか?
援助者の視点

話しかけてくれたり、比較的表情も穏やかであったりするときは、コミュニケーションを取ることは可能です。

ひもとき?
上記の困り事は認知症の病態に起因していると考えますか?
援助者の視点

認知症の病態に起因していることもあるのではないかと思っていますが、今までの生活歴や、性格、病歴なども起因していると思います。

B 課題の整理 Ⅱ 援助者が想定する対応・方針

② あなたは、この方に「どんな姿」や「状態」になってほしいのですか。

感情のコントロールが行え、活気のある生活を送ってもらいたい。

ひもとき?
活気のある生活とは、どのような生活を想定しているのですか?
援助者の視点

元々社交的な方で、趣味として日舞をやっており、地域の方との交流もあり、デイサービスを利用し始めたころはボランティアの方と共に踊りを披露してくれたこともあります。この事例を作成したときは状態がサービス開始時と異なり、感情の起伏が激しかったため、感情の安定と安楽な生活が送れるとよいと思っていました。

③ そのために、当面どんな取り組みをしたいと考えていますか(考えましたか)。

・コミュニケーションを取る際には、本人の分かりやすい言葉ではっきりゆっくり話す。(接遇の基本を忘れない)
・こだわりや執着心、思い込みがあった際、否定的なことを言わず本人の思いを聞き入れた後、話の内容を他方向へと持っていくと落ち着いた会話が可能なときもある。

ひもとき?
これまでに、落ち着いてできた会話の内容とは、どのような内容ですか?
援助者の視点

家族(きょうだい)の話。
踊り(趣味)の話。
本人の昔話(体験したことや仕事など)。

C 本人の状態や状況を事実に基づいて確認してみよう

④ 困っている場面で、本人が口にする言葉、表情やしぐさ等を含めた行動や様子等を事実に基づいてみていきましょう。

「葬式があるから赤飯を200人分炊いてほしい」「みかんを頼んでほしい」などの食に関する訴えが、昼夜問わずある。

ひもとき?
上記の言葉はどのような場面で見られるのですか? また言葉の背景に潜む本人の思いを職員の間で推し量ったことはありますか?
援助者の視点

厨房がある方向を見ているときや食後など、ほとんどは方向や状況に関係なく突然言うことが多かったです。職員間では、発言に対する答え方を検討したりしたことはあります。

ひもとき?
食の満足感との関連はあると考えられますか?
援助者の視点

食の満足感との関連もあるとは思いますが、日中の生活していた場所から厨房が見えるため、食に関する発言があるというのも十分考えられます。また、サービス利用前の在宅生活をしていたときも信仰深く、新聞のおくやみ欄を見て、親戚でもない知らないお宅に行きお経をあげていたこともあるとの話も聞きました。そのため、葬式や仏具に関する発言が多いのではないかと思います。

本人が収集している物に対し声掛けを行うと、「わしは取っとらん!!」などの自分を守る言葉を言い、険しい表情で時折手を上げることがある。

ひもとき?
どのようなものを収集するのですか?また収集の目的は何であると考えますか?
援助者の視点

収集していた物は、生花・造花・草などの植物と、新聞、広告、本、教本、歌本、箸、スプーン、食事の際に使用するエプロン、おやつなどです。目的というのか、発言としては「家に持って帰って家族に渡す」上記にあるよう「わしは取っとらん」などがありました。

「葬式がある」「仏具が欲しいから仏壇屋に連れて行ってほしい」などの御詠歌に関する訴えがある。その際、キリッとした表情で訴えることが多い。

ひもとき?
どのような場面で上記の言葉を訴えるのですか?
援助者の視点

状況や時間、天候や曜日など関係なく、突然言うことが多かったです。何に対しても、思いどおりにならないと怒鳴ったり、手を上げたりすることへとつながります。

ひもとき?
Aさんの思いどおりの行動(生活)とは、どのような行動(生活)だと考えますか?
援助者の視点

Aさんが思ったままの行動を、他者から遮られることなく生活できるということなのではないかと思います。しかし、そのような生活では、不衛生や転倒などのリスクも考えられるためスタッフの声掛けはやはり必要となるのではないかと思います。

D 課題の背景や原因等の整理

⑤ 本人にとっての行動や言葉の意味を理解するために、思考展開シートを使って、課題の背景や原因を考えてみましょう。

思考展開シート

・生きがいとしてきたことが現在は行えず、本人の欲求が満たされていないため、ストレスが溜まっているのではないか。
・自身の思いに反する対応をされることや、うまく人に思いを伝えられないことのもどかしさより、手を上げることへつながるのではないか。(本人は人のためと思って行っていることが、他者にとったら迷惑であることが多い)
・疾病や薬の副作用からの影響もあるのではないか。

E 事例に書いた課題を本人の視点に置き換えて考えてみよう

ここで、この事例を本人の立場から、もう一度考えてみましょう。

⑥ 本人の言葉や様子から、本人が困って(悩んで)いること、求めていることは、どんなことだと思いますか?

・人のため(特に家族のため)に役に立ちたい。
・欲求を満たしてほしい。
・自分を褒め、感謝してほしい。
・思いどおりに体が動かないため、もどかしい。(嫌になる)

F 課題解決に向けた 新たなアイディア

⑦ あなたが、このワークシートを通じて思いついたケアプランなど、新しいアイディアを考えてみましょう。

・本人のストレスをためないため、欲求を満たすケアプランを作成していく必要があるのではないか。
・家族との連携を図り、本人が持ち帰りたい物を持ち帰れる環境を提供する。
・御詠歌を披露できる場所の環境を整え、アクティビティを実施していく。
・本人に過ごしやすい環境を提供することで、家族のストレスを軽減する。

ひもとき?
こだわりや執着心が強い・感情の起伏が激しい・コミュニケーションがうまく取れない・会話が成立しない利用者のケアにスタッフは困り、事例展開に取り組みました。利用者の示す言葉や行動の裏にある利用者の思いを探っていく作業の中で、改めて気づいたことや確認できたことはありましたか?
援助者の視点

今までは、生活歴や家族構成、嗜好や趣味、病歴などの基本情報しか気にとめていませんでしたが、本人の生活に影響していることがそれだけではなく、薬の副作用や環境、性格や生活背景、ストレスなどのいろいろな要因が影響しているのだと気づきました。また、かかわった中での表面的なことや書類の中の利用者しか見ていませんでしたが、ひもときシートに記入していくうちに視野が広がり、利用者への視点が変わりました。利用者のことを主観的から客観的に見ることができるようになったのです。そのため、この事例対象利用者以外の方とのかかわりの中でも、本人のみならず周りを見るということの大切さというのを改めて感じさせられました。

ひもときアドバイス

 デイサービスを利用した当初のAさんは、ボランティアの方と共に踊りを披露する、地域の方と交流するなど社交的な一面を見せていましたが、次第に物に対するこだわりの強さと、感情の起伏の激しさが、職員とのコミュニケーション(意思疎通)を阻んでいきました。事例提供者は、このままでは不衛生になり、転倒の危険性も高くなることを危惧して事例検討に取り組みました。
 当初事例提供者は、Aさんが示す言葉や行動の裏にある思いを推し量ることより、認知症の病態の悪化、Aさんの性格や生活歴が影響しているととらえたうえで、コミュニケーション(意思疎通)が取れる対応策を探していました。しかし思考展開を進める中で、薬の副作用や環境、性格や生活背景、ストレスなどのいろいろな要因が影響しているのだと気づきました。また、「書類の中の利用者しか見ていなかった」と、介護を担う多くの職員に内省を促すことができる貴重な意見を得ました。
 職員にとって「困った」と感じる出来事を、あえて利用者を主語として多角的視点でとらえ直すと、今まで見えなかった利用者の新たな一面を発見することができます。ところが、日々忙しく業務をこなしていくうちに、保身感情が優先され、職員にとって都合のよい解決策を探してしまいます。
 本事例は、利用者のとらえ方を主観的視点から客観的視点に変換させることの効果、複眼的に利用者を理解しケアを進めることが、結果的に職員の困り事を解決することにつながることを教えてくれた貴重な事例でした。

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