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事例ワークシート 事例36

A 課題の整理Ⅰ 援助者が感じている課題

① 事例にあげた課題に対して、あなた自身が困っていること、負担に感じていること等を具体的にみていきましょう。

終日、焦燥感があり、他者への不安の訴えがあったり、落ち着けずウロウロしたりする。
基本的には穏やかな性格であるが、気分によっては怒ることもあり、大声を出し、介助拒否が強い。
夜間眠れず、落ち着けない。他者の居室に入る。「どうして」と動き回る。言葉の理解が出来ない。歩行が困難になってきている。

ひもとき?
どういった場面でこの方は怒りだすことが多いですか?
援助者の視点

・便秘・かゆみ・不眠・しんどいなど、体に不快な症状が見られる場面。
・目が覚めた瞬間や、夜起きてリビングに誰もいない、入浴で洗髪の時に顔に水がかかる、他者に何度も問いかけるが思うような言葉が返ってこない、小さな不安にすぐに対応できず少し時間が経過した場合など、状況が極端に分からず混乱している場面。
・周囲のざわつきや人の動き、自分の物と判断がつくものなどの視覚的な刺激が強い場面。

ひもとき?
いつも動きまわろうとする人なのに歩行が困難になっていることと、怒りだして大声を上げることとの間には関係があると思いますか?
援助者の視点

歩行困難になってきたことの要因のひとつに、認知症以外の病状の悪化も考えられる。歩行が少しずつ困難になり動き自体が少なくなることで、呼ぶ声の大きさや語調がやや強くなったり、手をなめる、うとうとと眠ってしまう、体の傾きや食事の飲み込みなどの他の行動や課題も現れるようになった。

B 課題の整理 Ⅱ 援助者が想定する対応・方針

② あなたは、この方に「どんな姿」や「状態」になって欲しいのですか。

認知レベルの現状維持。
いつも人の傍に寄っていくのは仲間に入りたいからでは? 仲間と落ち着いて共に作業が出来ると良い。
穏やかな雰囲気でいて欲しい。
他の人から尊敬される存在でいてほしい。
眉間にシワが寄らない程の精神的な安定。

ひもとき?
そのために、援助者としてのあなたや職員が、グループホームの理念として心がけていることがあれば教えてください。
援助者の視点

人の痛みを自分におきかえ人が平等に生きていくことを基本として、一人ひとりの長所を活かし、家庭的な環境の下で、地域の中の一員として、その人らしく暮らしていけるようサポートすること。
生活の中で、本人の思い・願い・その方を理解しようと努めること、家族とともに普通の暮らし、その方の今までの生活が出来るだけ継続できるように工夫すること。
ホームだけではない、他職種との連携、地域の中で本人を支えることを大切にしたいと思っている。

③ そのために、当面どんな取り組みをしたいと考えていますか(考えましたか)。

認知レベルの現状維持。
いつも人の傍に寄っていくのは仲間に入りたいからでは? 仲間と落ち着いて共に作業が出来ると良い。
穏やかな雰囲気でいて欲しい。
他の人から尊敬される存在でいてほしい。
眉間にシワが寄らない程の精神的な安定。

ひもとき?
そのために、援助者としてのあなたや職員が、グループホームの理念として心がけていることがあれば教えてください。
援助者の視点

人の痛みを自分におきかえ人が平等に生きていくことを基本として、一人ひとりの長所を活かし、家庭的な環境の下で、地域の中の一員として、その人らしく暮らしていけるようサポートすること。
生活の中で、本人の思い・願い・その方を理解しようと努めること、家族とともに普通の暮らし、その方の今までの生活が出来るだけ継続できるように工夫すること。
ホームだけではない、他職種との連携、地域の中で本人を支えることを大切にしたいと思っている。

C 本人の状態や状況を事実に基づいて確認してみよう

④ 困っている場面で、本人が口にする言葉、表情やしぐさ等を含めた行動や様子等を事実に基づいてみていきましょう。

・「帰りたい。」「早く行こうかね。」
・「先生殺される。助けて下さい(大声)。」
・カーテンを引きちぎる。
・火に敏感(オレンジ色の電気も)。
・「早く、早く。」
・「どうするの?(何をすればいいの)」を繰り返す。
・「どうして?わからない。」「やってほしい。」「誰か来て。」

ひもとき?
このような言葉が出るきっかけになるようなことはありますか?
援助者の視点

・「夜間」「暗い」「一人」「しんどい」「痛い」「不快」「わからない」「目の前にある物」などで不安、恐怖、焦りなどの感情が高まる時。
・カーテンを引きちぎるなどの行動は、思うように動けなくなってから。

D 課題の背景や原因等の整理

⑤ 本人にとっての行動や言葉の意味を理解するために、思考展開シートを使って、課題の背景や原因を考えてみましょう。

思考展開シート

周囲の環境の理解や人間関係の理解ができず、不安が言動に出る。
「何かしなければならない、何かしたい」との思いが強く、訴えとして現れる。
身体が休みたいほど疲れていても、焦燥感から身体が動いてしまい、疲労が増す。

ひもとき?
思考展開シートを書き終えて気付いた病気や薬の影響はありましたか?この方の言動の背景にあるのは、不安や「何かしたい」という心の面以外にも考えられますか?
援助者の視点

「こんなはずではない」「自分が一人でいることは受け入られない」という気持ちは常に感じられた。
「娘がいるはず、おばあさんは?男の人はどこ?」など。学生時代成績も優秀で、子供を立派に育てた100点満点主婦だった自分と、今の自分自身とのギャップ。常にどうしてなのか理由を追求しようとする知的な部分も常にあり、焦りになっていたように思う。
経過の中で見られる体調の変化は、大きく関係していると思う。かなり認知症が進行した状況での入居であったが、うつ的な傾向が見られる場合は、初期から内服治療を継続する方がよいのだろうか?
薬の服用については、危険認識が薄いことに加え、歩行等への影響や家族の思いを重視し、かなり躊躇した感があったが。一概には難しいと思うが、いかがだろうか?

E 事例に書いた課題を本人の視点に置き換えて考えてみよう

ここで、この事例を本人の立場から、もう一度考えてみましょう。

⑥ 本人の言葉や様子から、本人が困って(悩んで)いること、求めていることは、どんなことだと思いますか?

自分がどういう状況で、何をすればいいのかが分からない。
ゆったりとした環境の中で、傍に誰か(理解してくれる人)がいてほしい。
自分に出来ること(流し台での作業、皮むき)をして認めてほしい。
子供がたくさんいるのに、どうしてここにいるのかわからない。納得できない。

ひもとき?
Aさんのグループホーム内での「役割」や家族との関係について、スタッフ間での連携などは取っていますか?
援助者の視点

家族のキーパーソンの名前を出し、安心感を持ってもらうよう声掛けし、情報を共有している。家族と情報のやりとりをしながら、スタッフ間で共有し、Aさんの心の中にある気持ちや得意なことやエピソードを聞いたり、集中して取り組めるものを探したり、Aさんのイメージを大切にした関わりを考えてきた。

F 課題解決に向けた 新たなアイディア

⑦ あなたが、このワークシートを通じて思いついたケアプランなど、新しいアイディアを考えてみましょう。

リビングは、利用者・スタッフの動きがあるため落ち着けないのではないか。しかし居室に一人でいることでも淋しさを感じたり、リビングからの音や声があったりして、落ち着けない。そのため、セミリビングを上手く活用し、視界を少し遮るためについたてを用意した。ゆったりとした音楽を聞きながら過ごす時間をスタッフと持つことが出来れば、不安を軽減し、安心に近づくのではないか。

ひもとき?
セミリビングの活用など、Aさんが居場所を見つけることで安心を得る手だてを、他の利用者やスタッフとの関係も含めて話し合う機会はありましたか?
援助者の視点

・随時、スタッフ間や家族も交えて話し合いながら、対応の検討、工夫を進めてきた。家族との関わりを多くもってもらったり、キーパーソンの名前を出すことで安心したり、買い物や散歩での見慣れた風景に気分が変わったり、馴染んだ野菜の皮むきなどには集中していられたりしていた時間が、認知症の進行や状態の悪化とともに少なくなったり、なくなったりしていくことを、受け容れきれないスタッフの気持ちがあるのではとも感じた。
・セミリビングの活用は、音楽、ついたてを準備し進めた。他利用者にとっては、距離をとることが出来てよかったが、本人の安心、居場所作りには至らなかった。
・このように焦燥感の強い方の援助において、安心を提供し続けることの難しさを、質問を通じて事例を振り返りながら改めて感じた。

ひもときアドバイス

 事例提供者は、助言者とのやりとりを通じて、「「どのように対応すべきか」について振り返りができた。」と述べている。特に項目をまとめて整理することができたことも評価した。家族が「薬はできるだけ使いたくない。」と述べたため、できる限り家族の意向に沿うように努めた。しかしそのために本人の「うつ」や「焦燥感」が昂じたとも感じており、「もっと早く医療に相談すべきであったことを反省している。」とも述べていた。
 このようなケースでは、医療とケアとが協力しながら、そこに家族支援まで含めた広い視野でサポートすることが必要である。事例提供者が「医療に相談したい」と感じ、家族の希望(薬は使いたくないとの意見)との狭間で悩みながらサポートしようとした姿勢は、パーソンセンタードケアの視点に基づいた立派な姿勢である。そこに早い段階から何でも相談できる医療との協力体制があれば、このように焦燥感の強い人を支援する際の大きな力になる。事例提供者の前向きで熱心な支援態度に、助言者が勇気づけられた。

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