① 事例にあげた課題に対して、あなた自身が困っていること、負担に感じていること等を具体的にみていきましょう。
何度となく繰り返される同じ質問に回答できなくなる。
毎日ほとんど同じ質問をしますので、ほとんど同じ回答をしています。2回目、3回目となると、介護者がその質問に対し丁寧に答えていないかもしれません。
ほとんど同じです。
真実はすでに夫は死亡しているが、Aさんは葬儀にも出席しているのに理解できていない上に、Aさんの悲しみを考えると真実を繰り返し伝えることはできない。職員は適当に言い聞かせているようで辛い。
「お父さん知らないかね?」「お父さんは病院ですよ。」「お父さんが病気?私はちっとも知らなかった。」「足のリハビリをしていますよ。」「それならいいけど。」
このような会話を一旦は納得して「あー良かった」と言いますが、5分と経たないうちに全く同じ質問が繰り返されます。
職員とAさんの繰り返されるやり取りを聞いている他の利用者に馬鹿にされてしまう。
会話のやり取りを聞いている利用者は、その様子や会話を覚えています。また、毎日言っていることも覚えていますので、訳の分からないことを言って職員を困らせていると思っています。
② あなたは、この方に「どんな姿」や「状態」になって欲しいのですか。
・周りの利用者に馬鹿にされない。
・繰り返しする不安の訴えが減ってほしい。
誰かが傍にいて好きな歌やAさんの子供のころの話など聞いていると楽しそうにしています。
③ そのために、当面どんな取り組みをしたいと考えていますか(考えましたか)。
「お父さんは元気だ」ということや、「娘は仕事に行っている」ことを質問されるたびに伝えている。
自分は全く知らされていない知らないこととして受け取り、心配をしている。
娘は遠方に住んでいるため月1回の面会であるが、繰り返しの訴えがあるときは、電話にて話ができるようにしている。
私たちと話すときとほとんど変わらない表情です。「そう、来てくれるの。よかった。待ってるよ。」でも、電話をしたことも忘れてしまうのは仕方がありません。
④ 困っている場面で、本人が口にする言葉、表情やしぐさ等を含めた行動や様子等を事実に基づいてみていきましょう。
「○子どこにいった?」と言って職員に聞く。「まだ帰っていないけど、どこに行ったか知らないか。」職員「仕事に行ったから、まだ昼間だし夜まで帰らないですよ。」
Aさん「そう、それじゃあ仕方がないわ。」と寂しそうな顔だったり、「あー良かった。あなたよく知ってるわー。」とにこにこしたり、その時によって違う。ただ、どのような反応であろうと、5分も経たないうちに同じ質問を繰り返す。
Aさんは、他人ばかりの中で暮らしていることはわかっていますが、時々ホームは家になっています。「うちにいるから安心だね。」という言葉もあります。Aさんは「家にいるはずなのに子供がいないのはおかしい」と思っているのかも知れません。
⑤ 本人にとっての行動や言葉の意味を理解するために、思考展開シートを使って、課題の背景や原因を考えてみましょう。
・一人でいる時間が長くなってくると不安になる。
・自分がしたいと思うことや、やっていることを理解している職員以外の人が入ってくる場合、していることに対して批判されたり、間違いを指摘されたりすると急に不安になってくる。それが、「帰る。」という言葉につながる。
自分と職員との関わりの中で、他人が入ってきて今までの楽しかった話題が変化したり、寸前までしていたことが中断されたりするという思いがありそうです。
ここで、この事例を本人の立場から、もう一度考えてみましょう。
⑥ 本人の言葉や様子から、本人が困って(悩んで)いること、求めていることは、どんなことだと思いますか?
私のお父さんや○子の顔を見ていないので心配になる。だから、不安になる私の近くに、誰か私を知っている人に傍にいて欲しい。家族のことが心配にならないように、私のことを知っている人と楽しく暮らしたい。
安心な拠り所。Aさん自身の病気のことや夫の様子、今までのAさんの家族のことや、今Aさんがどうしたら良いのか教えてくれる人。
⑦ あなたが、このワークシートを通じて思いついたケアプランなど、新しいアイディアを考えてみましょう。
介護員がただ同じ空間にいるだけでなく、Aさんと心が近くにいる必要があるので、グループホーム内での日常作業では、Aさんがその作業をしなくてもAさんに話しかけながら行う。同じ空間にいることに加えて、心が傍にいることが大切だと思う。Aさんは座っているが介護員は動き回っている、というのではなく、介護員は日常作業をしていても話しかけたり、ときには不安になる前にゆっくり話を聞いたり歌を一緒に歌ったりと、日常共にいる姿勢が必要だと思う。Aさんも介護員と一緒に作業をする。「お願いね。」ではなく、「一緒にやりましょう。」Aさんがいやなら、「これだけやってしまうから、ここで見ていてほしい。」など、一人になる時間を少なくしていく。
「私どうすればいい?」と聞いているときがあります。立ち上がってキョロキョロしているときには、質問される前にどうしたいのかを聞くと良いかも知れません。
ワークシートを記入していて私も気になった点です。今まで、居室の殺風景な様子を気にはなっていましたが、Aさんがほとんどの時間を部屋で過ごしていないことや、人恋しい方との捉え方、皆がいるホールからは一番離れた所に居室があることなど考え、Aさんの暮らしをグループホームの皆がいるホールで過ごすことに限定していたような気がします。一人でいられない居室環境なのだから必然的にホールで過ごすしかないのかも知れません。
家族の方に協力していただき、取り組んでみたいです。しかし、家族も遠方におり、Aさんも家を離れて5~6年が経ってしまっていますので困難かも知れません。幸い夫婦で暮らした家がまだ処分されずにありますので、そこを訪ねることからしてみます。
この事例の場合は同じ質問を繰り返すAさんに対して、職員の対応も少しずつ変化していくし、それを見ている他の利用者もその様子を記憶して、巻き込まれてしまっています。安心して暮らすためには、ゆったりした気分で「ここにいてもよい」と思える居心地のよさを提供したいのですが、自宅を離れて3箇所目の入居先となったグループホームでは、馴染みの世界についての情報が乏しい現実があります。これを機会に思い出探しが上手くいけばそれは良く、上手く見出だせないでも、「あなたがこれまで大切にしてきたものを一緒に大切にしますよ」というスタッフの態度がAさんに伝わるだけでも大きな価値があります。そういう暮らしの一コマ一コマがAさんの居心地を変えていくと思います。
時間をかけて、ゆったり構えて、傍にいることから始めたら、きっと他の利用者との関係も何らかの変化が見られることでしょう。Aさんの言葉とともに馴染みの品やこだわりの事柄を尊重しながら、Aさんがどんなときに居心地の良い瞬間の表情をしているのかを探ってみてください。言葉表現がたくさんできる今だから、まだ間に合います。