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事例ワークシート 事例43

A 課題の整理Ⅰ 援助者が感じている課題

① 事例にあげた課題に対して、あなた自身が困っていること、負担に感じていること等を具体的にみていきましょう。

トイレに誘うと「自分で行きますからいいです。」「やめてください。」「行きたい時に行きます。」と言い、拒否する。パッドに失禁が見られるので、パッドだけでも交換させて欲しいことを伝えるが、一度拒否があると大声を出したり、職員を叩いたりして、「あなた、あっち行って。」「嫌い。」「うるさい。」と言う。職員がトイレに誘うことがストレスになっている。機嫌良くトイレに誘えた時も、便座の前に行くと、急に機嫌が悪くなり拒否をするので困惑する。

ひもとき?
機嫌良く誘えた際の声掛けは、具体的に、どのような場面でどのような言葉で言っていますか?
援助者の視点

機嫌良く誘えた際の声掛けは、具体的に、どのような場面でどのような言葉で言っていますか?

ひもとき?
入浴や人に裸を見られる際に拒否をすることはありませんか?
援助者の視点

あります。

ひもとき?
機嫌が悪くなり拒否をする要因はどこにあると考えていますか?また、それは、その職員の人間性、介護技術によるのでしょうか?
援助者の視点

恥ずかしいという思いを持っている感じを受けます。
「自分でできるのに、何であなたにしてもらわなくてはならないの?」といった思いから拒否をするようにも感じます。
本人に状況が伝わらないままに、トイレの介助に入っている場合があるので、それが原因かもしれません。

B 課題の整理 Ⅱ 援助者が想定する対応・方針

② あなたは、この方に「どんな姿」や「状態」になって欲しいのですか。

本人が嫌な思いをせずに、トイレに行けるようになって欲しい。

ひもとき?
拒否する状態の時、どのような思いをしていると思いますか?
援助者の視点

「自分でできるのに、なぜ、こんなことをするのだろう?」と疑問に思っている。
「こんな恥ずかしいことを、なぜしなければならないのか。」と怒りと不安を感じているかもしれません。

③ そのために、当面どんな取り組みをしたいと考えていますか(考えましたか)。

・定期的に声を掛けるが、本人が拒否した時は時間をおいてから声を掛ける。
・無理強いはせず、思いを聞く。

ひもとき?
排尿間隔や尿量のチェックなど、排泄チェック表をつけたことはありますか?
援助者の視点

パッド検討のために、入居当初はチェックをしていましたが、その後、本人の排尿間隔や尿量を知るためのチェックはしていません。

ひもとき?
失禁をしているのにどうして拒否しているのでしょうか?どのような背景が考えられますか?
援助者の視点

自分でできるという自負。人の世話になりたくない。または、遠慮。人前で恥ずかしい、といった心理面が影響しているように考えています。背景には、今まで家庭の中で、自分で切り盛りしていたこと、まず、人をたてることを大切にしていたことから、「人に迷惑を掛けてはいけない」という思いがあるのではないかと考えています。

C 本人の状態や状況を事実に基づいて確認してみよう

④ 困っている場面で、本人が口にする言葉、表情やしぐさ等を含めた行動や様子等を事実に基づいてみていきましょう。

トイレの声掛けをすると、「自分で行きますからいいです。」「やめてください。」「行きたい時に行きます。」と言う。パッド交換だけでもさせて欲しいことを伝えると、「濡れていません。」と言う。その後も誘い続けると無視をしたり、「もうやめて。」「放っておいて。」「あなた、あっち行って。」「嫌い。」「うるさい。」と言い、職員を叩く。時折、「そうですか、分かりました。」とトイレの声掛けに応え、トイレ前まで行ける時があるが、便器の前に行くと表情が曇り、「行きません。」「立つのがつらいのでしません。」「今はしたくありません。」と言って黙り込む。
まれに「そうですか。」と言い、表情は硬いがトイレに行くこともある。

D 課題の背景や原因等の整理

⑤ 本人にとっての行動や言葉の意味を理解するために、思考展開シートを使って、課題の背景や原因を考えてみましょう。

思考展開シート

・今まで一人で何でもしてきた。
・とても働き者で他者や家族に優しい人だったので、他人に迷惑を掛けたくない。
・脳梗塞を起こしてまだ日が経過しておらず、自分の障害を受け入れられない。
・他者の前で、恥ずかしい思いをしたくない。
・乗り移りなどができない自分を認めたくない。
・日常生活の中で生きがいがない。
・賑やかな場所が嫌いで、必要以上の声掛けにストレスを感じている。

E 事例に書いた課題を本人の視点に置き換えて考えてみよう

ここで、この事例を本人の立場から、もう一度考えてみましょう。

⑥ 本人の言葉や様子から、本人が困って(悩んで)いること、求めていることは、どんなことだと思いますか?

・今までできていたことができなくて悔しい。
・恥ずかしい思いをしたくない。
・人の世話になりたくない。
・知らない人に触られたくない。
・トイレと認識できないまま、連れて来られているので不安。
・狭く、暗いところに連れて行かれるので不安。

F 課題解決に向けた 新たなアイディア

⑦ あなたが、このワークシートを通じて思いついたケアプランなど、新しいアイディアを考えてみましょう。

・トイレは無理強いせず、本人が納得した時に行くようにする。
・トイレのサインが出ていないか(本人の動作や表情を)観察する。
・本人の思いや悩みを家族から聞いてもらい、心理面の負担を減らす。
・家族から職員を紹介してもらい、馴染みの関係が作れないか試す。
・本人と過ごす時間を持てないか検討する。
・家でのトイレ環境を調べる。

ひもときアドバイス

 私たちが当たり前のように行っている援助場面、特に排泄援助を相手の立場に立って考えることは認知症の人に限らずとても大切なことだと思います。人は、排泄という場面においては、最後まで人の手を借りたくない部分ではないでしょうか?
 本人自身が自分でできるという「自分でできるのに、何であなたにしてもらわなくてはならないの?」という言葉の意味を受け止め、排泄の方法や施設での日常の関わりを考えていかなければならないと思います。
 思考展開シートを通して明らかになったことをスタッフ内で共有し、新たなアセスメントを通してワークシートFの問題解決に向けた新たなアイディアを具体化し、ケアプランを作成すると良いのではないでしょうか。
 このような事例は介護現場ではよくあることだと思います。今回のワークを通して考え、整理し、振り返りを行うことで、認知症である本人の思いにより近づくことができたのではないでしょうか。

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