① 事例にあげた課題に対して、あなた自身が困っていること、負担に感じていること等を具体的にみていきましょう。
夜間の不眠、長時間にわたる徘徊、他利用者への暴力、脱衣行為、徘徊時のふらつきに対しての見守り(常時、スタッフ一人の付き添いが必要なこと)。話が通じず意思疎通が困難であるため、排泄介助、入浴、食事などがスムーズにできないこと(介護への抵抗)。
徘徊時のふらつき(前傾姿勢での体の傾き、本人は前も十分に見ることができない状態、片足を引きずり歩く)による、転倒、事故の危険性への配慮とそれが長時間にわたることです。
また、エピソードについては、例えば「おしっこがしたい。」と言っても、トイレ誘導をすると激しい抵抗にあいます。言葉かけの仕方など工夫するが意味が通じないため、自分の思うようにしか行動が取れない様子です。廊下や居室での排泄があります。生活全般に関してそのような感じで、食事も自分からは食べようとせずに介助を必要としますが、一口二口食べた後は拒否があります。しつこく勧めると興奮します。
② あなたは、この方に「どんな姿」や「状態」になって欲しいのですか。
・歩行、移動時のふらつき軽減により、自由に行動ができるようになる。
・食事、水分の摂取や排泄が出来るようになり、身体不調の回復に伴い落ち着いた生活が送れるようになる。
・以前のように日本舞踊を踊ったり、他利用者との交流ができる。
③ そのために、当面どんな取り組みをしたいと考えていますか(考えましたか)。
認知症の正確な診断、それに伴う向精神薬の調整。それにより副作用を軽減でき、意思疎通がはかれるようになる。
内服薬の調整が行われ、認知機能の回復が見られました。現在は会話の理解も得られるようになっています。(この事例を書いた内容については、専門医受診以前で他の精神科医を受診していた時の内容です)
・食事、水分摂取、排泄の管理を行い、体調の安定を図り焦燥や苛立ちの軽減をはかる。
・本人の自由意志に基づく行動を出来る限りサポートする。
上記の取り組み内容が共有している目標です。
本人の特技を披露する場をつくる。
若い頃からダンスが好きで、その後は日本舞踊の先生をしていました。そのため、入居後も誕生会などの行事で披露をお願いすると快く承諾して、踊ってくれていました。
④ 困っている場面で、本人が口にする言葉、表情やしぐさ等を含めた行動や様子等を事実に基づいてみていきましょう。
・「きつい。」「おしっこがしたい。」「足が痛い。」との訴えがあり、排泄誘導や安静について言葉をかけながら促しても、何をしているか理解できない様子で、手を振り払い、殴る蹴る等、激しい抵抗がある。表情が暗く、うつむき加減で疲れている様子があるが、座ってもすぐに立ち上がって歩き、ゆっくり休むことができない。食事時も座り続けることが困難で、途中で摂取が出来なくなる。
・付き添いスタッフに対し、初めは自ら手を繋いで歩くが、突然に怒り出し、いらいらして足踏みをするなどの行為がある。
連携は図っています。「きつい。」との訴えや排泄については、血液検査やバイタル上は問題はなかったです。ただし、このままの状態が続くと問題になっていく可能性は非常に高いと考えていました。「足の痛み」については、整形外科の受診を行っています。画像診断上は特別大きな問題はなく、「変形性膝関節症」の診断がありました。シップを貼付しても、本人が嫌がり外します。
⑤ 本人にとっての行動や言葉の意味を理解するために、思考展開シートを使って、課題の背景や原因を考えてみましょう。
また、栄養や水分不足、便秘、足の痛み等の体調不良から、怒り、苛立ち、不安、焦燥に繋がっているように感じられる。
内服薬は短期間で認知機能を極端に低下させ、そのため本人の混乱も激しくなっているように感じました。また、全身状態の変化(身体不調)に関しても、疲れの出ている表情の変化や、きついけどどうして良いか分からない、という不安やもどかしさが本人の中にあるように感じました。具体的な内容については、それまで見られなかった夜間不眠や脱衣行為が出現したこと、徘徊が長時間になり、興奮や暴力的な行為が頻回に起こるようになったことです。
ここで、この事例を本人の立場から、もう一度考えてみましょう。
⑥ 本人の言葉や様子から、本人が困って(悩んで)いること、求めていることは、どんなことだと思いますか?
突然に怒り出し、暴力的になること。足踏みをするなどいらいらしたような様子に対して、自分で体や感情をうまくコントロールできない苛立ちや焦りがあるのではないか(向精神薬の影響)。また近くにいるスタッフの手を握ろうとしたり、会話の中で突然に怒り出すことは、自分の中にあるきつい大変な部分を理解してほしい、助けてほしいという意味があるのではないか。
⑦ あなたが、このワークシートを通じて思いついたケアプランなど、新しいアイディアを考えてみましょう。
・認知症の正確な診断、それに伴う向精神薬の調整。
・食事、水分摂取、排泄の管理を行い、体調の安定を図って、焦燥や苛立ちの軽減をはかる。
・本人の自由意志に基づく行動を出来る限りサポートする。
・本人の特技を披露する場をつくる。
・落ち着ける空間の提供(人が多い状態や雑音を避ける)。好きな音楽をかける。
・疼痛(下腿)の緩和。
・担当を決めることで信頼できるスタッフを作る。
・家族の面会、外出の協力依頼。
私たちケア者は、処方の向精神薬の副作用による影響で徘徊、脱衣行為、暴力行為、夜間不眠等のBPSD(行動・心理症状)を引き起こしていると気づいていても、医師に対して処方した薬の副作用が出ているのではないかとは伝えにくい現状があります。過去にも同じような事例を経験し、薬の調整が重要であることを感じていました。薬による影響を医師に明確に伝えることができること、職員の現場での対応を通して検証していけることを確認できました。
徘徊や気分の変動が激しくなり、それを抑えるための薬が医師の診断のもと処方され、内服薬の服用と共に、徘徊や脱衣行為、夜間不眠、暴力行為などが見られるようになったという事例です。
処方の向精神薬の副作用による影響であると、事例提供者はすでに気づいています。それは以前にも同じような事例を経験しており、介護者が気づいていても医師に伝えにくい現状があったとのことでした。今回も以前の経験を通して、事例をワークシートを使用して検討し、薬からの副作用によりBPSDを増強させていることを検証しています。
BPSDに対してそれを抑えようとする内服薬はたくさんありますが、それに対する副作用が必ずあるはずです。BPSDに対してケアの方法を工夫することはとても大切ですが、医師の診断のもと処方されている内服薬に対しても、本人の状態がどのように変化したかを観察し、認知症に対する正しい診断ができるようにしなければならないことが明確にされています。