「事例を探す」

事例ワークシート 事例60

A 課題の整理Ⅰ 援助者が感じている課題

① 事例にあげた課題に対して、あなた自身が困っていること、負担に感じていること等を具体的にみていきましょう。

・大きな声、奇声をあげて騒ぐ。
・たたく、つねる、唾を吐くなどの行動がある。

ひもとき?
このような様子が見られるときに何かきっかけと思われるような事柄や状況がAさんや周囲にありましたか?
援助者の視点

トイレ時の身体介護、入浴時の着脱介助時に身体に触られたとき。
通りがかりに声掛けしたとき。

ひもとき?
このようなときにスタッフはどのようにかかわりを持っていますか?
援助者の視点

・Aさんが小声になるまで待つ。
・再度、どのような援助をするか説明する。
・Aさんがどのようにしたいか確認する。
・通りがかったときには少し距離をおく。

B 課題の整理 Ⅱ 援助者が想定する対応・方針

② あなたは、この方に「どんな姿」や「状態」になってほしいのですか。

大声、奇声をあげずに穏やかに過ごしてほしい。

ひもとき?
Aさんにとっての「穏やかに過ごす」とは、具体的にどのような様子をイメージしますか?
援助者の視点

・笑顔で話ができる。
・大声を出さずに排泄・入浴ができる。

③ そのために、当面どんな取り組みをしたいと考えていますか(考えましたか)。

Aさんに何をしたいのか、どんなことをしてほしいのか確認しつつ行っている。

ひもとき?
Aさんに確認をするということに取り組もうと思ったのは、何かきっかけとなる話し合いや具体的な事柄、Aさんからの言葉などがあったからでしょうか?
援助者の視点

・食事中・食後にかけて、胸の痛みを訴え、見守りするも大きな声を出したり、落ち着きなくまわりを見たりしていた。 ベッドでの休養を勧めると「歩いて行く。」と言い3m程歩行、「歩けば疲れる。」と言い車椅子を要求。「無理なく歩けると良いですね。」と声掛け、その後落ち着きレクリエーションに参加できた。
・ほかの利用者から「大きい声を出している。」「うるさいなあ。」の声があった。
・Aさんが「自分でできる。世話やくな。」と言ったため確認しつつ行うこととした。

C 本人の状態や状況を事実に基づいて確認してみよう

④ 困っている場面で、本人が口にする言葉、表情やしぐさ等を含めた行動や様子等を事実に基づいてみていきましょう。

・「知っています。」「自分でやれます。」「触らないでください。」と言いつつたたく、つねる、唾を吐く。
・知らないふりをする。そっぽを向く。
・職員が見えないと呼ぶ。
・食べ物、薬を吐き出す。

ひもとき?
このような様子のときのAさんの気持ちはどのようなものだと思いますか?また、スタッフはこのような様子を見てどのように感じていますか?
援助者の視点

・自分でできるのだから手を出さないでほしい。
・できない自分がはがゆい。
・一人では心細い。寂しい。見える所にいてほしい。

D 課題の背景や原因等の整理

⑤ 本人にとっての行動や言葉の意味を理解するために、思考展開シートを使って、課題の背景や原因を考えてみましょう。

思考展開シート

・触られることを嫌う。
・職員が交代して、同じことを問い掛けている。
・自分のことは自分でやりたいができない。
・粉薬がむせる。

ひもとき?
思考展開シートを記入して、Aさんの気持ちをさらに深く考えたり、感じたりしたことで、スタッフのAさんへのかかわり方などに変化が見られたり、新たに気がついたことなどはありませんか?
援助者の視点

・Aさんのペースに合わせた声の大きさ、行動の仕方が見られた。
・Aさんの話をしっかりと聞いて次の行動に移っていた。

E 事例に書いた課題を本人の視点に置き換えて考えてみよう

ここで、この事例を本人の立場から、もう一度考えてみましょう。

⑥ 本人の言葉や様子から、本人が困って(悩んで)いること、求めていることは、どんなことだと思いますか?

・触ってほしくない。
・急がせないでほしい。
・自分のことは自分でやりたい。
・歩きたいのに歩けない。
・薬は甘く小さいのが良い。
・お風呂は嫌い。
・一人にしないでほしい。

ひもとき?
Aさんの立場に立って考えたときに、Aさんはどうしてそのように思っているのだろう?など、その理由や原因について分かってきたことがありましたか?
援助者の視点

・Aさんができることまで援助しているのではないか。
・知らない所に連れてこられ、声掛けられ、見つめられ、身体を触られ、理由が分からないうちにいろいろなことをされていると思っているのではないか。

F 課題解決に向けた 新たなアイディア

⑦ あなたが、このワークシートを通じて思いついたケアプランなど、新しいアイディアを考えてみましょう。

・どんな言葉や援助をしたときに、BPSD(行動・心理症状)が見られなかったか、職員で出し合ってみる。
・痛みのあるとき、痛みを軽減できるように医療関係者に相談できるように家族との連携を取る。

ひもとき?
スタッフ間で様子について出し合うことが大切だと思い、取り組もうとしているのにはどのような理由があるのでしょうか?
援助者の視点

・Aさんへの心配り(優しさ、いたわり)。
・大声を出し、ほかの利用者の方に心配・迷惑をかけているため。
・スタッフの対応方法によって、大声・奇声の出し方が違っていたため。

ひもとき?
医療機関や家族との連携を強化することでどのようなことに変化が見られればいいと思いますか。また、そのときに気をつけなければいけないことなどはありますか?
援助者の視点

・Aさんの痛みの軽減。
・痛みの原因の把握。

ひもとき?
今回の取り組みで、スタッフが改めて気がついたことや確認したことなどについて聞かせてください。
援助者の視点

・Aさんのことを分かっていた(ほかの利用者も)聞く・見る・伝えるなど必要なことは行っていたが、ひもときシートで振り返ることができた。今まで以上に内容が濃い介助につなげたい。
・利用者は、日によっても、体調によっても変化がある。その時々のニーズに対応できるように、他職種・スタッフ間で情報を共有し連携を取っていきたい。
・Aさんの大声・奇声も時々は見られるも、落ちついて笑顔で過ごすことが多くなった。

ひもときアドバイス

 入浴介助や排せつ介助などのかかわりを持つときに、大声やたたく、つねるなどのBPSDが出現しているAさんについて、日ごろのかかわりなどを振り返り見直した事例でした。振り返る視点として、Aさんに対して説明をしっかりと「伝える」、気持ちを「聴く」、すぐに援助者側が反応するのではなく「待つ」など、さまざまな視点を持ってかかわりを見直しています。この取り組みをしたことで、「Aさん自身ができることまで援助をしていたのではないか」などという大切なことに気づくと共に、「寂しさや心細さなどが起因となっているのでは」ということにも、Aさん自身の言葉や様子から導き出しています。
 そして、今後は援助者側のペースで物事を進めがちになってしまうことをいつも意識しながら、チーム内で共有化を図るためにその都度話し合いを持っていくというひとつの方針が出ました。
 この事例の取り組みのように、援助者側の困り事で終わらせずに一度立ち止まってみることで、「伝える」「聴く」「待つ」という認知症介護での重要な視点を振り返ることができ、これは今後、別の状況が起きたとしても繰り返し考えるためのきっかけとなる視点だと思われます。また、私たち援助者は、その人のためと思いかかわりを持っていることでも、思考展開シートなどを記入し多方向から踏み込んで考えることで、別の視点に気づくことができ、全く違うかかわり方が見えてくることも多いということも覚えておかなければいけません。
 今後は、医療機関や家族も含めて大きな連携を取りながら身体面、心理面からのアプローチがなされていくのだと思いますので、他職種それぞれの立場から情報や意見交換を行い、Aさんへの優しさやいたわりを大切にしたかかわりを続けてほしいと思います。

前のページへ戻る
事例一覧へ戻る