① 事例にあげた課題に対して、あなた自身が困っていること、負担に感じていること等を具体的にみていきましょう。
・大きな声、奇声をあげて騒ぐ。
・たたく、つねる、唾を吐くなどの行動がある。
トイレ時の身体介護、入浴時の着脱介助時に身体に触られたとき。
通りがかりに声掛けしたとき。
・Aさんが小声になるまで待つ。
・再度、どのような援助をするか説明する。
・Aさんがどのようにしたいか確認する。
・通りがかったときには少し距離をおく。
② あなたは、この方に「どんな姿」や「状態」になってほしいのですか。
大声、奇声をあげずに穏やかに過ごしてほしい。
・笑顔で話ができる。
・大声を出さずに排泄・入浴ができる。
③ そのために、当面どんな取り組みをしたいと考えていますか(考えましたか)。
Aさんに何をしたいのか、どんなことをしてほしいのか確認しつつ行っている。
・食事中・食後にかけて、胸の痛みを訴え、見守りするも大きな声を出したり、落ち着きなくまわりを見たりしていた。 ベッドでの休養を勧めると「歩いて行く。」と言い3m程歩行、「歩けば疲れる。」と言い車椅子を要求。「無理なく歩けると良いですね。」と声掛け、その後落ち着きレクリエーションに参加できた。
・ほかの利用者から「大きい声を出している。」「うるさいなあ。」の声があった。
・Aさんが「自分でできる。世話やくな。」と言ったため確認しつつ行うこととした。
④ 困っている場面で、本人が口にする言葉、表情やしぐさ等を含めた行動や様子等を事実に基づいてみていきましょう。
・「知っています。」「自分でやれます。」「触らないでください。」と言いつつたたく、つねる、唾を吐く。
・知らないふりをする。そっぽを向く。
・職員が見えないと呼ぶ。
・食べ物、薬を吐き出す。
・自分でできるのだから手を出さないでほしい。
・できない自分がはがゆい。
・一人では心細い。寂しい。見える所にいてほしい。
⑤ 本人にとっての行動や言葉の意味を理解するために、思考展開シートを使って、課題の背景や原因を考えてみましょう。
・触られることを嫌う。
・職員が交代して、同じことを問い掛けている。
・自分のことは自分でやりたいができない。
・粉薬がむせる。
・Aさんのペースに合わせた声の大きさ、行動の仕方が見られた。
・Aさんの話をしっかりと聞いて次の行動に移っていた。
ここで、この事例を本人の立場から、もう一度考えてみましょう。
⑥ 本人の言葉や様子から、本人が困って(悩んで)いること、求めていることは、どんなことだと思いますか?
・触ってほしくない。
・急がせないでほしい。
・自分のことは自分でやりたい。
・歩きたいのに歩けない。
・薬は甘く小さいのが良い。
・お風呂は嫌い。
・一人にしないでほしい。
・Aさんができることまで援助しているのではないか。
・知らない所に連れてこられ、声掛けられ、見つめられ、身体を触られ、理由が分からないうちにいろいろなことをされていると思っているのではないか。
⑦ あなたが、このワークシートを通じて思いついたケアプランなど、新しいアイディアを考えてみましょう。
・どんな言葉や援助をしたときに、BPSD(行動・心理症状)が見られなかったか、職員で出し合ってみる。
・痛みのあるとき、痛みを軽減できるように医療関係者に相談できるように家族との連携を取る。
・Aさんへの心配り(優しさ、いたわり)。
・大声を出し、ほかの利用者の方に心配・迷惑をかけているため。
・スタッフの対応方法によって、大声・奇声の出し方が違っていたため。
・Aさんの痛みの軽減。
・痛みの原因の把握。
・Aさんのことを分かっていた(ほかの利用者も)聞く・見る・伝えるなど必要なことは行っていたが、ひもときシートで振り返ることができた。今まで以上に内容が濃い介助につなげたい。
・利用者は、日によっても、体調によっても変化がある。その時々のニーズに対応できるように、他職種・スタッフ間で情報を共有し連携を取っていきたい。
・Aさんの大声・奇声も時々は見られるも、落ちついて笑顔で過ごすことが多くなった。
入浴介助や排せつ介助などのかかわりを持つときに、大声やたたく、つねるなどのBPSDが出現しているAさんについて、日ごろのかかわりなどを振り返り見直した事例でした。振り返る視点として、Aさんに対して説明をしっかりと「伝える」、気持ちを「聴く」、すぐに援助者側が反応するのではなく「待つ」など、さまざまな視点を持ってかかわりを見直しています。この取り組みをしたことで、「Aさん自身ができることまで援助をしていたのではないか」などという大切なことに気づくと共に、「寂しさや心細さなどが起因となっているのでは」ということにも、Aさん自身の言葉や様子から導き出しています。
そして、今後は援助者側のペースで物事を進めがちになってしまうことをいつも意識しながら、チーム内で共有化を図るためにその都度話し合いを持っていくというひとつの方針が出ました。
この事例の取り組みのように、援助者側の困り事で終わらせずに一度立ち止まってみることで、「伝える」「聴く」「待つ」という認知症介護での重要な視点を振り返ることができ、これは今後、別の状況が起きたとしても繰り返し考えるためのきっかけとなる視点だと思われます。また、私たち援助者は、その人のためと思いかかわりを持っていることでも、思考展開シートなどを記入し多方向から踏み込んで考えることで、別の視点に気づくことができ、全く違うかかわり方が見えてくることも多いということも覚えておかなければいけません。
今後は、医療機関や家族も含めて大きな連携を取りながら身体面、心理面からのアプローチがなされていくのだと思いますので、他職種それぞれの立場から情報や意見交換を行い、Aさんへの優しさやいたわりを大切にしたかかわりを続けてほしいと思います。