「事例を探す」

事例概要 事例62

タイトル:私が妻を殴るのを止めてほしい(デフォルメ版)

Ⅰ.<事例の状況>

 50歳代後半でアルツハイマー型認知症の妻を単身で介護しているAさん(60歳代前半)は、銀行を早期退職して以来7年間、介護生活を続けてきた。妻は若年発症の認知症が進行して現在の長谷川式スケールは3点。全ての生活を支えなければならない。Aさんはこれまでに糖尿病を持っていたが近所の「かかりつけ医」でコントロールしてきた。
 ところがAさんは、ここ数カ月の間に血糖値が上がり、ちょっとしたことでもいらいらするようになったため、その医師を通じて大きな病院を受診したところ、血管性認知症であることを告知された。そのことをきっかけに、絶望感と妻への思いが交錯して焦燥感が激しくなり、妻のちょっとしたミスにも激怒して殴ってしまうようになった。妻はデイサービスを週2回、クリニックの通所リハビリを週1回利用し、ホームヘルパーにも週3回来てもらっているが、誰もいない深夜に妻の行動・心理症状(BPSD)が出るとAさんは怒りを抑えることができず、何度も殴ってしまう。Aさん自身もそのことに悩んでいる。「自分の認知症が進めばもっと理性を失ってしまうのではないか」と心配になる。

Ⅱ.<この事例で課題と感じている点>

介護を受けている妻も介護者であるAさんも、共に認知症になった。Aさんの感情が抑えきれなくなったとき、妻に暴力をふるってしまうAさんの行為をどのように抑え、二人のこころと生活を支援できるか。

Ⅲ.<キーワード>

認知症の人同士の介護。 身体的虐待(不適切行為)。 夫婦の心身ケア。

Ⅳ.<事例概要>

年  齢 60歳代前半
性  別 男性
職  歴 Aさんは銀行員(介護のために早期退職)
妻は自営で洋品店を経営
家族構成 夫婦のみ 子どもはない。 唯一の親戚は妻の兄だが音信不通。
認知機能 Aさん HDS-R18点
妻   HDS-R 3点
要介護状態区分 妻 要介護4
認知症高齢者の日常生活自立度 Aさん Ⅰ
妻   Ⅳ
既 往 歴 Aさん 糖尿病・高血圧
妻には特筆すべきことなし
現   病 Aさん 血管性認知症
妻   アルツハイマー型認知症
服 用 薬 Aさん 服薬なし
妻   アリセプト
コミュニケーション能力 Aさんは感情が抑えきれなくなった場合を除き、ほぼ自分の意思を伝えられる
妻は自分の意思を伝えることがほぼ不可能
性格・気質 Aさんは思い悩む傾向あり
妻は明るく世話好き
A D L Aさんは自立
妻には全面的なケアが必要(ほとんどを自宅で臥床して過ごす)
障害老人自立度 Aさん 自立
妻   C1
生きがい・趣味 Aさんの趣味は読書。現在の生きがいは「妻のえがお」。
妻は社交的で世話好き、映画が趣味。
生 活 歴 Aさんには家族がなく結婚して初めて家庭の雰囲気を知った。
妻は兄との同胞2人。学校卒業後にAさんと結婚して洋品店を経営していた。
人間関係 Aさんの「きまじめさ」と妻の社交性が対照的。
本人の意向 「こんなこと(妻を殴ること)を繰り返している自分が情けない。」
「何とか自分の行為を抑えてほしい。」
事例の発生場所 自宅
前のページへ戻る
ワークシートへ