DC博士のワン・ポイント

認知症を知る

第三話:認知症になってもできること、認知症に対してできること

身体が覚えている

 認知症という病気の中核となる症状は、記憶や判断といった知的機能・認知機能の障害です。しかし、知的な機能のすべてが、一度に失われてしまうわけではありません。以前から覚えていた知識や、印象深かった出来事の記憶などはまだまだ残っています。特に、家事や趣味などご本人がそれまでの生活でずっと続けていたようなこと、楽しんでやってきたようなことは、身体が自然に動くほどその人にしみついているものです。
 もちろん、その人がもっている力を発揮するための環境づくりは必要かもしれませんが、そうしたことを行えることは、ご本人にとってもうれしく、自信につながるものです。

豊かな"こころ"

 「認知症になると何もわからなくなる」「ボケたが勝ち」・・・本当でしょうか?
 確かに、認知症の症状は時を経れば進行していきます。しかし、感情はあまり障害されず、かなり末期の段階まで残っています。例えばほんの少し前の出来事を忘れてしまっていても、ここがどこだかわからなくなっていても、悲しい、さびしい、嫌だ、うれしい、楽しいといった感情は、いつも感じています。また、感情の記憶は心に残りやすいものです。いつもできていたことができなくなったつらさや不安、覚えのないことで叱られた嫌な気持ち、自分らしさを発揮できたうれしさを生き生きと感じる心、そしてそれまでの人生を生きてきた誇りはもち続けます。

治療

 薬物療法:認知症の中核症状に対してはアルツハイマー型の認知症の進行を抑えたり緩やかにする治療薬や、脳血管障害の治療薬などが用いられます。また、抑うつ、妄想、幻覚といった認知症の行動・心理症状に対しては症状に合わせた薬物療法が行われ、適切な処方があれば改善も望めます。加えて、認知症の症状がみられる病気の中には早期発見・早期対応により治療可能なものがありますので、できるだけ早く専門の医療機関への相談・受診ができるとよいでしょう。
 非薬物療法(心理療法):薬物療法以外に、心理・社会的な観点からのアプローチもなされます。これらは、(1)認知症があることによる不安や混乱、抑うつなどの軽減や、(2)認知機能の活性化などを目的に、十分な訓練を受けた心理士や精神科医などによって行われます。
 非薬物療法(リハビリテーション):認知症の人の生活機能を高めようとするリハビリテーションも、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士などによって行われます。また、音楽療法や芸術療法といった、感性に働きかける取り組みもあります。

ケア

 認知症の症状の中でも、特に行動・心理症状は心理的な要因が作用して出現することもあります。そのため、適切なケアが提供されることによって、認知症のある方の心理的ストレスが軽減し、行動・心理症状を軽減できる可能性があります。
 また、適切なケアや対応を提供するためには、認知症について正しい知識をまずもち、その人のありよう・その人らしさを理解し受け入れてそれを尊重する、といった基本的な態度をもつことが大切です。
 認知症初期の生活管理能力の低下や、中期以降の生活動作の障害に対してもケアが必要です。たとえば認知症の初期では内服薬を間違いなくきちんと服用することが難しくなるので、服薬管理の支援が必要になります。 認知症が進むにしたがい、着替えや入浴、排泄動作、さらに食事摂取などに関するケアが必要になってきます。本人が自分でできることを見極めて、最小限の手助けで生活を支援することが、能力をなるべく長く保つ秘訣です。何でもしてあげるケアは、能力を奪うケアになってしまいがちです。

適切なケアの図

認知症介護研究・研修仙台センター