DC博士のワン・ポイント

認知症を知る

第二話:認知症の方の心~認知症になった時の気持ちは?~

認知症の方の世界を理解する

 認知症になると何も分からなくなり、徘徊や妄想、興奮など不可解な行動を起こすと考えている人たちがいます。たしかに認知症の人には、直前のことを忘れたり、今いる場所が分からなくなる、あるいは親しい人のことが分からなくなるなどの症状が現れてきます。しかしこれは認知症という「病気」が原因で起こっていることなのです。私たちでも今いる場所が分からなければ、帰ろうとします。もしこれを周囲の人が止めたり、帰れないように部屋に鍵をかけたりしたら、私たちでも大声をあげたり興奮したりするのではないでしょうか。「もし自分がそういう状況だったら・・・」ということを考えると認知症の人の行動は不可解でも何でもないのです。

もの忘れのつらさ

 もの忘れは誰にでも起こるものです。私たちでも「あれ?今ここに何をしにきたんだっけ?」と思う体験をしたことがあるはずです。しかし何をしに来たのかは、たいてい後で思い出すことが多いものです。もし思い出すことができず、しかもそのような状況が頻繁に起こったらどうでしょう。認知症の方のもの忘れは、このような状況が日常の中で頻繁に起こっているのです。私たちでももの忘れをしたときには不愉快な気分になったり、不安になるのと同様に、認知症の人たちもこのもの忘れが原因で不愉快で不安な日々を送っているのです。認知症という病気は、決して楽な病気ではなく、何より本人自身が日々つらい思いをしているのです。

できなくなってきたことの悔しさ

 認知症になると、仕事や家事など普段何気なく行ってきたことに失敗が見られるようになります。私たちでも失敗すると嫌な気分になりますし、今度はうまくやろうと思うでしょう。しかし認知症の方の場合、このような失敗がだんだんと大きなものになっていきます。認知症の方は、病気が原因でこのような失敗が起こっているということは理解できなくても、自分がこれまでうまくやってきたことができなくなったことには気づいています。さらに仕事上の失敗や家事の不手際が目立つようになり、周りの人たちからも指摘されるようになるために、悔しい思いをしたり、少しずつ自信を失っていったりするのです。これは何より認知症の方本人にとって非常に悔しい体験なのだということを理解することが必要でしょう。

問題行動から認知症の行動・心理症状へ

 「もの忘れ」、「見当識障害(時間や場所の見当がつかなくなること)」、「判断力の障害」などは、認知症の基本的な症状(中核症状)といわれます。しかしこのほかにも「徘徊」や「攻撃的行動」「不潔行為」「妄想」などのさまざまな症状が起こることがあります。これらの行動は以前にはケアを困難にさせる行動という意味から「問題行動」や「行動障害」と呼ばれてきました。しかし最近では、これらの行動が、基本的な症状に身体的・心理的・社会的影響などが加わって起こるものであると理解されるようになってきました。そのため、現在ではこれらの一連の行動や症状を「認知症の行動心理症状:Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia(BPSD)」と呼ぶようになっています。

中核症状と行動・心理症状の図

認知症介護研究・研修仙台センター